フライパン桜子 ― 2010年05月15日 21時12分30秒
きゃはははは!
街の中心を流れる想井川。そこに架かる願石橋を渡っていた直人の耳に、子供達の笑い声が飛び込んできた。
「お姉ちゃん、早く早くぅ~!」
「今度はもっとスピード出してよ~」
「待ってなさい、今行くわよ!」
その声に振り返ると、子供達に混ざって一人の女子高生が遊んでいる。一緒に土手滑りをしているようだ。
「あれ? あの子、うちの制服だ……」
直人はその集団に近づく。白いブラウス、そしてチェック柄のリボンとスカート。やっぱり同じ高校の生徒のようだ。
「誰だろう……?」
女子高生は、平べったくて丸いものに柄がついたソリのようなものを持ち、土手の上にすくっと立った。そしてそれをお尻に敷き、勢いよく土手を滑り下りる。短いスカートがひらひらとめくれて下着が見えそうだ。
「すごい、すごい!」
「さすがお姉ちゃん、はやーい!」
子供達がやんやと囃し立てる。
「鋼鉄製だからね。早いわよ~」
とソリを自慢する女子高生。
えっ、鋼鉄製――!?
よく見ると、女子高生がお尻に敷いていたのはソリではなく、フライパンだった。
「も、もしや、あれはフライパン桜子……?」
直人はしばし言葉を失った。
言葉を失うのには理由があった。
桜子が笑うところを、クラスの誰一人も見たことがなかったからだ。
彼女は転入生だった。
しかもアンドロイド。
県の先端工学研究所から、特別な試験のために派遣されて来た。
「彼女は人間生活について勉強中なの。だから仲良くしてあげて下さいね」
担任はそう言ったが、誰も仲良くする生徒はいなかった。
反応がすべて機械的だったからだ。
機械的と言っても動作がぎこちないわけではない。動きや見た目は他の生徒と変わらなかった。ただ、表情や話し方に人間らしさがない。
つまり愛想が全く無かったのである。
愛想が無いだけならまだ許せる。
人間社会に飛び込んだ可哀想なアンドロイドと、親切にする生徒も出てきただろう。
実際、彼女の顔の造りは美しかった。
美人で物静かなアンドロイド。それだけでも男子生徒が群がって来そうなものだ。
彼女から生徒を遠ざけていたのは、別に理由があった。
絶えず彼女が手にしているもの――鋼鉄製のフライパンだ。
それを軽々とうちわのように扇いでいる。
なんでも授業を妨害しないようにと、静粛性を保ちながらCPUを冷やすのに最善の方法なのだという。
アンドロイドである彼女にとっては必要不可欠な行為。しかし、生徒達には違う目で見られることになった。
――馬鹿力で無愛想な出来損ないロボット
いつしか彼女は、『フライパン桜子』と呼ばれるようになった。
「あんな表情もできるんだ……」
子供達と土手滑りをしてはしゃぐ桜子――それは、学校では決して見ることのできない彼女の姿だった。
肩の上でそろえたストレートの黒髪が、坂を滑る度にサラサラと風になびく。
元々、顔の造りは美しいのだ。そこに活き活きとした表情が宿れば、こんなにも可愛く見えることを直人は知った。
いつしか直人は、願石橋の欄干に体を預けて土手滑りを眺めていた。
石造りの欄干は、肘を置くとひんやりとして気持がちいい。願石橋はその名の通り、総石造りの橋で県の史跡に指定されていた。
「ほらお姉ちゃん、あそこ見て! 綺麗だよ」
「あら、本当……」
指をさす子供達の声に誘われて、直人も山の方を見る。ちょうど夕陽が沈むところだった。
子供はもう帰る時間。
それに、会社帰りのサラリーマンも増えて来た。
子供達に混ざって遊んでいる桜子は、大人達の奇異な視線を向けられている。
それもそのはず、よく考えたら異様な光景だ。女子高生が制服のまま土手滑りに興じている。どう見ても常識では考えられない。
もしかすると、桜子にはそういう常識がまだインプットされていないのではないだろうか?
「やあ……」
子供達が帰ると、直人は桜子に近づき声をかける。
すると彼女は静かに振り向いた。
「……!」
学校にいる時と同じ無機質な表情。
先ほどまでの笑顔とのギャップに、直人はぞっとする。
「あなたは……、直人君ね」
さすがはアンドロイド。データ検索のためにわずかな間があったが、一度も話しをしたことのないクラスメイトの名前を正確に言い当てる。
「土手滑り、楽しい?」
直人は頑張って言葉を紡ぐ。
「あなたには関係ないわ」
表情を少しも変えずに彼女は言う。そこに冷たさでもあれば、まだマシなような気がした。
しかし直人はめげずに言葉を続ける。
彼女は何も知らないアンドロイドだ。女子高生が制服姿で土手滑りをすることは、常識外れだと教えてあげなくてはいけない。
「あの……、それ、やめた方がいいよ。ほら、スカートの中が見えちゃうじゃん」
勇気を振り絞って忠告した。
もしかしたら恥じらいの表情が見れるかと思った。
しかし、その考えは間違いだった。
「見えるはずないわ」
返ってきたのは無表情の拒絶。
「このフライパンのフチの形状を考慮に入れれば、見えるはず無いの。もちろん柄の部分で生じる死角や、スカートの長さも計算に入れているわ。スカートのめくれ加減は、傾斜三十度で秒速十メートルの滑降速度以内であれば問題なし。あなたには全く関係ないわ」
いや、滑る時が問題なのではなくて、坂を上る時に後ろから丸見えなんだけど……
そんな突っ込みを入れたかったが、直人はやめておいた。
心を閉ざした彼女に、何を言っても無駄だった。
翌日。
学校での桜子はいつもの通りだった。
直人の二つ前の席で、非常に正しい姿勢で授業を聞いている。
ときどきフライパンを扇いでCPUを冷却しながら……
その姿を眺めながら、直人はずっと昨日の出来事を思い出していた。
あの笑顔は幻だったのか……?
桜子が機械的なのは、そのように造られているからとずっと思っていた。
しかし、そうではなかった。
彼女は美しい笑顔を持っている。
それは、クラスで自分だけが知っている事実。
なぜ彼女は子供だけに心を許すのだろう?
それとも、クラスメイトに心を閉ざしている方に何か理由があるのだろうか?
いずれにせよ、目蓋の裏に浮かんでくるのは昨日見た彼女の満面の笑顔だった。
きゃはははは!
「お姉ちゃん、もっと早くぅ~」
「今度のコースは急だよ~」
「見てなさい。地獄の果てまでまっしぐらよ!」
だから直人は今日も来てしまった、願石橋に。
桜子は相変わらずフライパンをソリにして子供達と遊んでいる。
あの笑顔をちょっとでも自分に向けてくれたなら……
欄干に体を預けながら、はしゃぐ彼女を眺め続ける。
(確かに滑っている時は、全然見えないなあ……)
直人の意識は、いつの間にか桜子のスカートの中に向いてしまっていた。
さすがは最新鋭のアンドロイド。『滑る時は見えない』という計算結果に間違いは無かった。
しかし、坂を上る時は無防備だ。
ひらひらと揺れるスカートの下から、チラチラと彼女の名前と同じ桜色の布地がその姿を覗かせている。
(彼女、気付いていないのかな……)
教えてあげなくては、と一瞬思ったが、昨日の彼女のセリフが直人の心に蘇る。
『あなたには関係ないわ』
あれは効いた。
背筋がぞぞぞっとした。
無表情の拒絶が、あれ程恐いものとは思わなかった。
そんなことを考えていると、直人の中にふと不安がよぎる。
自分は桜子の笑顔だけが見たいのだろうか?
実は、彼女の下着が見たいという欲求の方が大きいのでは?
それとも、クラスで自分しか彼女の笑顔を知らないというこの優越感に、浸っていたいだけなのだろうか?
山があれば登りたくなるように、人は難しいことにチャレンジしたくなるという。
自分に関心を示さない彼女を、なんとか振り向かせたいという気持ちもあるだろう。
今日も子供達に笑顔を振りまく桜子。
子供達には見せる笑顔を自分に向けてくれないのは、そんなやましい気持ちを彼女が感じ取っているからなのかもしれない。
いろんな不安が頭の中でグルグルと回り、直人はその場を一歩も動けずにいた。
それから一週間半くらいの間。
直人は桜子に声を掛けることもできず、願石橋の欄干でただ彼女を眺めているだけの放課後を過ごしていた。
そんなある日、ホームルームが終わっていつものように願石橋に向かおうとした直人を、桜子が呼び止めた。
どうしたんだろう……?
ドキドキしながら彼女の後を付いていくと、誰もいない校舎裏に辿り着く。
振り返った彼女は、いつもの無表情のままだった。
「もう願石橋には来ないで」
そして、いきなりの最後通告。
「なんで? あれから行ってないよ。それに僕の勝手だろ。君には関係ない」
直人はとぼけた。
毎日君を見ていた、なんて恥ずかしくて言えるわけがない。
いつも離れたところで眺めていたから、気付かれていない自信もあった。
「あなたはもう九回も来ている。だからもうダメ」
げっ……
バレバレじゃん。
恥ずかしさのあまり、直人は顔が紅潮する。
そしてその波が去ったかと思うと、入れ替わりに怒りがこみ上げて来た。
気付いていたならなぜ声を掛けてくれない?
九回も無視され続け、最後に干渉してくるとはどういうことだ。
「だから言ってるだろ、僕の勝手だって」
つい語気を荒立ててしまう。アンドロイド相手に無意味なこととはわかっているが……
「もう一度忠告するわ。これ以上あの橋に来ると、あなたのためにならない」
えっ? 何だって?
僕のためにならないだって?
それはどういうことだ?
土手滑りの現場をこれ以上僕に見られたくない、の間違いじゃないのか?
「なぜ?」
直人は素朴な疑問を投げつけた。
すると桜子は少し間を置いて、口を開いた。
「それは言えないわ」
おかしい。
彼女は何かを隠している。
人間だったら誤魔化すところをアンドロイドであるが故に嘘をつけず、『言えない』ことを正直に話してしまった感じだ。
(どうしたら願石橋に行ってはいけない理由を教えてくれるだろう……?)
そこで直人は、揺さぶりを掛けてみることにした。
「教えてくれなかったら行くよ、今日も願石橋にね」
「お願い、やめて。それだけは、やめて……」
桜子の表情が一瞬曇る。
そんなわずかな変化を直人は見逃さなかった。
彼女が直人に対して見せた、初めての人間らしい表情だった。
葛藤――人間で言えばそんな感情なのかもしれない。
あることと別のことが、心の中で衝突する。
機械で言えば、二つの命令のコンフリクト。
今の桜子は、そんな感じだった。
直人が願石橋に行ったならば、そこできっと何かが起こる。
それを直人に話してはいけないという命令と、話して彼を止めたいという命令がぶつかっている。
きっと彼女のCPUは、グルグルとめまぐるしく稼動しているに違いない。
その時、直人はふと思った。
彼女のフライパンを奪ったらどうなるのだろう?
コンフリクトを起こしている今なら、CPUが熱暴走を起こすかもしれない。
実際、今の彼女は頻繁にフライパンで扇いでいる。CPUが激しく発熱している証拠だ。
(試しにやってみるか……)
そこで直人は、一旦彼女を安心させることにした。
フライパンの動きが止まれば、奪い取る機会が訪れるかもしれない。
「じゃあ、もう願石橋に行くのはやめるよ。君がそこまで言うのなら」
「よかった……」
するとフライパンの動きが鈍った。
コンフリクトが解消されたためだ。
今だ!
直人は桜子からフライパンを奪い取る。
「あっ!?」
そしてバランスを崩した彼女は、直人の胸に倒れこむ形となった。
彼女の胸の部分が熱い……
どうやらCPUは胸にあるようだ。
「返して!」
「返したら、僕は願石橋に行くよ!」
巧みに彼女のコンフリクトを復活させる。しかもより複雑な形にして。
そして排熱をさらに悪くするため、胸を密着させようと彼女の肩に手を回した。
まるで恋人を抱きしめるような格好だ。
えっ!?
直人は驚いた。
アンドロイドというから、もっと硬い感触を予想していた。
しかし、直人の手を通して伝わってきたのは、華奢な、女子高生の肩そのものだった。
これ以上力を入れると壊れてしまいそうな……
そして胸に押し当てられる柔らかな感触。
パチン!!
その時、何かが弾ける音がした。
同時に彼女から力が抜け、直人に寄りかかってくる。
「桜子!」
直人は思わず叫んでいた。
壊れてしまったと思った。
しかし――
「大丈夫よ……、でも、もっとしっかり支えていて……」
耳元で聞こえる弱々しい彼女の声。
よかった、まだ壊れていない。
「わかったわ、全部話すわ……」
熱暴走のため、話してはいけないという命令が吹っ飛んだのだろう。
コンフリクトは解消された。命令の一つが消えるという形で。
桜子は、直人の腕に抱かれながらゆっくりと話し始めた。
「チラ見防止条例って知ってる?」
チラ見防止条例? なんだそりゃ?
でもどこかで聞いたことがある。
「そういえばこの間、テレビのニュースで見たような……」
そうだ、それは県が制定しようとしている条例だった。
女子高生のスカート丈がどんどん短くなっているため、チラ見が原因の交通事故が増えている。それを『見る側』からも規制しようという動きだ。
しかしその条例と彼女とは、どういう関係があるのだろう?
「私はね、チラ見の現状を調査するために造られたの」
それはどういうことだ?
すると土手でのあの行動は、すべて調査のために仕組まれたものだったのか?
「じゃあ、あの土手滑りは……?」
「そうよ、あなたの考えている通り。調査のための行動よ」
わざと制服姿で下着が見えそうな行動を取る。
そして、往来の人達がどんな反応をするかを観察し、記録を取っていたというのだ。
「……」
まんまと県の調査の策略に引っかかったような感じがして、直人は悶々とした感情に包まれる。
「私の体には沢山のセンサーが付いているの。往来の人達を観察記録するためのね。同時に百人の人達を個別に追尾できる機能を持っているわ」
そいつはすごい。
見つかっていないと思っていたのは、直人の自分勝手な思い込みだった。
実は詳細に記録が取られていたという事実に、直人の背筋は寒くなった。
「それでね、往来の人達がいつこちらを見たのかを個別に分析するわけ。下着が見えていた時間とその可視方位のデータとを照らし合わせながらね。その分析結果に基づいて、チラ見判定を行っているんだけど……」
彼女の説明は続く。
要するに、いつ誰がチラ見したのかが詳細にわかるということだ。
直人は次第にくらくらしてきた。
彼女が絶えず鋼鉄製のフライパンを持ち歩いているのも、未計測時に情報を遮断してセンサーを休ませるという目的があったのだ。
「私が得たデータではね、実に男の人の八十八パーセントがチラ見をしていたわ」
それは衝撃的な調査結果だった。
確かに彼女の言う通り、願石橋を渡るサラリーマンの多くはチラチラと桜子を見ていた。
でもそれは仕方が無いだろう。
可愛い女子高生がスカートをひらひらさせながら土手滑りをしているんだよ。
見るなと言う方が難しい。
逆に、九十パーセントを越えなかった方が奇跡ではないかと、直人は思った。
「それでね、チラ見には習慣性があるの。それについての調査も行っているわ」
なんでも顔認識を行い、同一人物が何回チラ見に訪れたのかも解析しているという。
「ねえ、ちょっと考えてみて。もし毎日のように女子高生のパンチラが見れそうな場所があったらどうする? 行くでしょ?」
いや、僕は君の笑顔が見たくてあの場所に、と言おうとして直人は口を閉じる。
彼女の下着を見なかったかと言われると、嘘になる。
その真偽は、恥ずかしながら彼女のデータが雄弁に語ってくれるだろう。
「そういうチラ見の常習者は、将来犯罪に走る可能性がある。のぞき、痴漢、ストーカー。そうならないように、特別な装置が私には仕掛けられているの」
特別な装置!?
いったいそれはなんだ?
「それはどんな……?」
直人はゴクリと唾を飲み込んだ。
「特殊ビームよ」
耳元の桜子の声が高揚する。まるで秘密兵器を取り出した時の正義のヒーローのようだ。
それにしてもビームって、なんだそりゃ? レーザービームとかそんなものか?
「チラ見の日数が十日に達するとね、下着の部分から特殊ビームが発射されるの。それは正確に常習者の網膜に情報を与え、サブリミナル効果を利用してその人を精神的に去勢するのよ。まあ、一種の催眠術ね」
「…………」
驚いた。
そんな装置が彼女には仕掛けられていたのか。
「その効果は?」
「効果はてきめんよ。今まで五人に照射したわ。精神的に去勢されるとね、チラ見をしたくなくなってしまうの。三人は来なくなって、あとの二人は通勤で橋を渡るけどこちらを見なくなったわ。それでね、その他にもレーザービームや中性子ビームとかもあるのよ……」
得意げに秘密兵器の説明を始める桜子。
もし、このことを知らずに今日も願石橋に出かけていたら、直人にも特殊ビームが照射されていた。
チラ見ができなくなるということは、土手滑りをする彼女の姿を見られなくなるということだ。
つまりそれは、彼女の笑顔が見られなくなるのと同じことだった。
ここで一つの疑問が浮上する。
特殊ビームが直人に照射されるのを、桜子はなぜ阻止しようとしたのだろう?
「なぜ、僕に教えてくれたんだ?」
「だって……、あなたは……、私に初めて真面目に忠告してくれた人だから……」
そうか、あの最初の時か……
『あなたには関係ないわ』と無表情に突き放されたと思っていたが、ちゃんと彼女の心に届いていたんだ。
勇気を振り絞ってよかった……
嬉しくなった直人は、抱きしめている手を緩めて彼女と向かい合う。 ちゃんとお礼が言いたかった。
すべてを告白し、研究所の呪縛から開放された桜子はまるで別人だった。
ほほを赤らめながら上目がちに微笑む桜子。直人がずっと待ち望んでいた瞬間だ。
直人はたちまち、愛しい気持ちで心が溢れそうになる。
そして見つめ合う二人。
言葉は要らなかった。
彼女が機械とは思えないほど心と心が通い合う。
ゆっくりと目を閉じる桜子。その桜色の唇に、直人は自分の唇をそっと合わせた……
「チラ見する人のデータに名前がインプットされているのは、あなただけなの……」
再び彼女を抱きしめると、今までの想いを吐き出すように桜子は語り始めた。
「だって、他の人は顔認識で判断しているだけでしょ。名前は分からない。あなたはね、顔と名前が一致している唯一の常習者なのよ」
いや、常習者扱いされるのは嫌なんですけど……
「それにね、あなたは常習者の中でもチラ見時間が一番長いの」
それって、パンツを一番長い間見ている人ってことじゃないですか。
そういえば、下着が本当に見えないのかってじっと観察していた時があった。その時にきっと、ポイントを稼ぎまくったのだろう。
直人はだんだん恥ずかしくなってきた。
「もういいよ、分かったから……」
「何を言いたいかというとね、私のデータはあなたの名前で一杯なの。直人、直人、直人、直人、直人、直人、直人……って感じ。あなたは私の中で溢れている……」
直人の腕の中で甘える桜子。
もしかするとずっと前からこうしたかったのかもしれない。
今の彼女はアンドロイドなんて硬いものではなく、か弱くて、愛しい、一人の女の子だった。
『下校時間となりました。校内に残っている生徒はすみやかに帰りましょう』
帰宅を促す校内放送が聞こえてくる。
「おい、桜子。調査はいいのか?」
「えっ?、あ……、だって、直人が来ちゃうから。あなたにビームは照射したくない……」
再び直人の胸に顔を埋める桜子。
さて、今日はどうしよう?
研究所の呪縛から開放された今の彼女なら、いつでも直人に笑顔を見せてくれるだろう。
それであれば、わざわざ願石橋に行く必要はない。
「忠告どおり今日は行かない。だってもう学校で仲良くできるんだろ。だから土手滑りに行ってきなよ、子供達も首を長くして待ってるぞ」
「う、うん……」
「じゃあ、明日は放課後に会おうよ。ココで待ってるからさ」
「あ……、うん、わかった……」
すると彼女はおもむろに顔を上げ、直人を見上げながら言った。
「ねえ、直人。最後に、もう一度キスしてくれる……?」
「ああ」
二人はそっと唇を交わす。長い長いキスだった。
「じゃあ、また明日。調査、頑張れよ!」
「さようなら……」
桜子はこちらを振り向くこともなく、走って行ってしまった。
ムフフフフ……
直人の頭の中は、先ほどの桜子とのことで一杯だった。
やっと彼女が笑顔を見せてくれた。
そして二回のキス。直人にとっては、もちろん初めてのことだった。
(桜子はぜんぜんアンドロイドっぽくなかったな……)
見つめ合うと心が通った。彼女が機械とはとても思えなかった。お互いの胸が熱い。そんな体験は初めてだった。
彼女を抱きしめた時の感触を思い出すと、つい顔がニヤニヤしてしまう。股間もパンパンに火照っていた。
(やべぇ、これじゃ人前に出れないよ……)
一人悶々としていた直人がフライパンの忘れ物に気付いたのは、桜子が帰ってしばらく経ってからだった。
「どうしよう、コレ……」
フライパンを片手に校門を出た直人は、歩きながら行き先に迷っていた。
(このフライパンが無いと、桜子は土手滑りができないぞ)
(土手まで届けた方がいいと思うけど、彼女の忠告を無視して行ってもいいのか?)
(さっきも『行かない』と宣言したばかりなのに……)
(案外、子供達にダンボールを借りて滑っているかもしれないぞ)
(チラ見訪問十回を達成するのは嫌だな……)
(去勢ビームを浴びたらどうしよう?)
(ビームは下着から発射されると言っていたから、パンツを見なければ大丈夫なんじゃないのか……)
あれこれと考えているうちに、いつの間にか直人は願石橋に着いていた。
きゃはははは!
想井川の土手では、今日も子供達が遊んでいる。
桜子は――見渡してもみつからない。
あれからここには来なかったのだろうか?
欄干に体を預けて川の流れに目を向ける。水面に夕陽が反射してオレンジ色にキラキラと光っていた。
今日は校舎裏で桜子と話しをしていたから、ここに来るのが遅くなってしまった。子供達はそろそろ帰る時間だ。
「バイバーイ!」
「じゃあね、また明日~」
おっと、子供達が帰ってしまう。
桜子が来たかどうかだけでも聞いてみよう。
直人はフライパンを持って子供達の方へ走り出した。
「ちょっと、君達~」
子供達が立ち止まり、少し警戒しながら直人の方を見る。
「いつもこれを持ってるお姉ちゃん、来なかった?」
フライパンを頭の上にかざすと、子供達の態度がガラリと変わる。
「あっ、お姉ちゃんのソリだ」
「違うよ、『地獄の片道チケット号』だよ」
「お兄ちゃんもそれで滑ってみてよ~」
口々に叫びながら直人を取り囲む子供達。その屈託のない笑顔が直人の心を洗っていく。
こんなにも好かれているんだ、桜子は……
そんな彼女とキスするくらい親密になった直人は、すでに子供達のヒーローになったような気分だった。
「ゴメン、ゴメン、今日は遊べないんだ。もう帰る時間だしね」
「ちぇ~」
「残念」
はははは、と笑いながら直人は肝心なことを子供達に聞いてみた。
「ねえ、今日はお姉ちゃん、来た?」
すると意外な答えが返ってきた。
「来たよ」
「うん、来た」
「でも、すぐに帰っちゃったんだよ」
「黒い車に乗って行っちゃった」
黒い車……?
直人の頭の中を不安がよぎる。
「それで、お姉ちゃん、ここで何してたの?」
「えっとねぇ、ずっと座ってた」
「そうそう、体育の時みたいに座って橋の方を見つめていたよ」
座ってた? 土手の上に?
橋の方を見ていたということは、直人が来るのを待っていたのだろうか?
(桜子も僕のことを待っていてくれたんだ。迷ってないで、もっと早く来るべきだった。子供達に見せつけるチャンスだったのに……)
直人の心に悔しさがこみ上げる。
「ありがとう、君達。いろいろと教えてくれて」
「ねえ、お兄ちゃんは明日も来る?」
「えっ?」
「そうだ、そうだ、明日も来てよ~」
そうか、そういう手もあった。
明日は桜子と一緒にここに来よう。そして一緒に土手滑りをすればいいんだ。
彼女と離れているからチラ見する。いつも近くに居れば、去勢ビームを浴びることはない。
子供達が帰った後、直人はそんなことを考えながら家路についた。
そして――
その日を境にして、桜子が学校に現れることは無かった。
翌日の朝のホームルームでは、担任から彼女の突然の転校が告げられる。
悲しむ者は、誰もいなかった。
関わりを持っていた人も誰もいなかった。
直人一人を除いて。
「ウソだろ……」
担任の言葉が信じられなかった。そんな事実は受け入れられなかった。
しかし桜子が居るべき席がずっと空いているのを眺めているうちに、喪失感がひたひたと直人を侵食した。
掴みかけた大切な大切なものが、するりと指の間からすり抜けてしまったような……
そういえば最後のキスの時、彼女の態度はなんだか歯切れが悪かった。もしかしたら、あの時すでに彼女は別れを予感していたのかもしれない。
(あのままずっと抱きしめていればよかった……)
直人の胸は、後悔と悲しみで引き裂かれそうだった。
諦めきれない直人は、担任から彼女の連絡先を聞き出した。
『この電話番号は現在使われておりません……』
何度かけても、無機質なアナウンスが響くだけ。
県の先端工学研究所にも連絡してみた。
『そんなアンドロイドは開発されていません』と門前払いだった。
施設内に入ることさえ許されなかった。
手がかりは途絶えた。
どこかの国に売られたという噂を聞いた。
機密漏えいでスクラップにされたという噂もあった。
噂が流れているうちはまだよかった。
しばらくすると話題にもならなくなり、クラスメイトの記憶から消え去っていった。
桜子を思い出すことのできる場所は、あの土手だけになった。
きゃはははは!
最後になって直人は願石橋にやって来た。手には彼女のフライパンを持って。
そこには何事もなかったように子供達の笑い声が響いていた。
「あっ、お兄ちゃんだ」
「遊ぼ、遊ぼ。一緒に遊ぼ!」
「お姉ちゃんはもう来ないの~?」
子供達が直人に気付き、声をかけた。
ちゃんと覚えていてくれたんだ……
直人を覚えていてくれたことよりも、桜子を覚えていてくれたことの方が嬉しかった。
ここには、彼女が存在した証があった。
すっかり嬉しくなった直人は、フライパンに座り子供達と一緒に土手滑りを始める。
が、すぐにバランスを崩しゴロゴロと坂を転げ落ちた。
こいつは超難しい~
直人はムキになって、何度も何度も土手滑りに挑戦した。
滑っている間は、悲しいことを忘れることができた。
夕方になり、夕陽が沈みかけると子供達は土手の上に並んで座り始めた。
「今日は天気がいいからアレが見れるよ」
「そうだね、きっと見れるよ」
「かーちゃん、今日の晩飯ラーメン丼って言ってたよ……」
「七時から放送の『特殊部隊チラミンジャー』楽しみだね~」
「チロの首輪が壊れちゃって……」
子供同士で勝手に会話を始める。
いったいこれから何が始まるんだろう?
何かが見られるらしいが、それは何なんだろう?
直人も子供達の傍に立つ。
すると一人の子供が橋の方を指さした。
「あっ、見えた!」
「見えた、見えた、『ありがとうちょくひと』だ」
えっ? どこ? 何も見えないけど……?
すると子供達に教えられた。
「お兄ちゃん、背が高いから見えないんだよ。座らなきゃダメだよ」
直人は言われる通りに土手の上に座る。そして子供達の指差す方を見ると――それはあった。
『ありがとう直人』
願石橋の側面全体を使って文字が刻まれていた。
橋に夕陽が当たって初めて浮かび上がる文字。
そしてそれは、この場所からしか見ることはできない。
きっと桜子が怪しいビームを照射して掘り込んだに違いない。夕陽が当たるとうっすらと影ができるようになっている。
そうか、最後の日にここに座っていたのは、これを掘っていたんだ……
「ありがとう、桜子……」
直人の頬を流れる涙は、しばらく止まることはなかった。
ライトノベル作法研究所 2010GW企画
ルール:学園を舞台とする
お題:「首輪」「ラーメン丼」「フライパン」「アンドロイド」「特殊部隊」「片道チケット」「ビーム」の中から三つ以上を選び使用する
街の中心を流れる想井川。そこに架かる願石橋を渡っていた直人の耳に、子供達の笑い声が飛び込んできた。
「お姉ちゃん、早く早くぅ~!」
「今度はもっとスピード出してよ~」
「待ってなさい、今行くわよ!」
その声に振り返ると、子供達に混ざって一人の女子高生が遊んでいる。一緒に土手滑りをしているようだ。
「あれ? あの子、うちの制服だ……」
直人はその集団に近づく。白いブラウス、そしてチェック柄のリボンとスカート。やっぱり同じ高校の生徒のようだ。
「誰だろう……?」
女子高生は、平べったくて丸いものに柄がついたソリのようなものを持ち、土手の上にすくっと立った。そしてそれをお尻に敷き、勢いよく土手を滑り下りる。短いスカートがひらひらとめくれて下着が見えそうだ。
「すごい、すごい!」
「さすがお姉ちゃん、はやーい!」
子供達がやんやと囃し立てる。
「鋼鉄製だからね。早いわよ~」
とソリを自慢する女子高生。
えっ、鋼鉄製――!?
よく見ると、女子高生がお尻に敷いていたのはソリではなく、フライパンだった。
「も、もしや、あれはフライパン桜子……?」
直人はしばし言葉を失った。
言葉を失うのには理由があった。
桜子が笑うところを、クラスの誰一人も見たことがなかったからだ。
彼女は転入生だった。
しかもアンドロイド。
県の先端工学研究所から、特別な試験のために派遣されて来た。
「彼女は人間生活について勉強中なの。だから仲良くしてあげて下さいね」
担任はそう言ったが、誰も仲良くする生徒はいなかった。
反応がすべて機械的だったからだ。
機械的と言っても動作がぎこちないわけではない。動きや見た目は他の生徒と変わらなかった。ただ、表情や話し方に人間らしさがない。
つまり愛想が全く無かったのである。
愛想が無いだけならまだ許せる。
人間社会に飛び込んだ可哀想なアンドロイドと、親切にする生徒も出てきただろう。
実際、彼女の顔の造りは美しかった。
美人で物静かなアンドロイド。それだけでも男子生徒が群がって来そうなものだ。
彼女から生徒を遠ざけていたのは、別に理由があった。
絶えず彼女が手にしているもの――鋼鉄製のフライパンだ。
それを軽々とうちわのように扇いでいる。
なんでも授業を妨害しないようにと、静粛性を保ちながらCPUを冷やすのに最善の方法なのだという。
アンドロイドである彼女にとっては必要不可欠な行為。しかし、生徒達には違う目で見られることになった。
――馬鹿力で無愛想な出来損ないロボット
いつしか彼女は、『フライパン桜子』と呼ばれるようになった。
「あんな表情もできるんだ……」
子供達と土手滑りをしてはしゃぐ桜子――それは、学校では決して見ることのできない彼女の姿だった。
肩の上でそろえたストレートの黒髪が、坂を滑る度にサラサラと風になびく。
元々、顔の造りは美しいのだ。そこに活き活きとした表情が宿れば、こんなにも可愛く見えることを直人は知った。
いつしか直人は、願石橋の欄干に体を預けて土手滑りを眺めていた。
石造りの欄干は、肘を置くとひんやりとして気持がちいい。願石橋はその名の通り、総石造りの橋で県の史跡に指定されていた。
「ほらお姉ちゃん、あそこ見て! 綺麗だよ」
「あら、本当……」
指をさす子供達の声に誘われて、直人も山の方を見る。ちょうど夕陽が沈むところだった。
子供はもう帰る時間。
それに、会社帰りのサラリーマンも増えて来た。
子供達に混ざって遊んでいる桜子は、大人達の奇異な視線を向けられている。
それもそのはず、よく考えたら異様な光景だ。女子高生が制服のまま土手滑りに興じている。どう見ても常識では考えられない。
もしかすると、桜子にはそういう常識がまだインプットされていないのではないだろうか?
「やあ……」
子供達が帰ると、直人は桜子に近づき声をかける。
すると彼女は静かに振り向いた。
「……!」
学校にいる時と同じ無機質な表情。
先ほどまでの笑顔とのギャップに、直人はぞっとする。
「あなたは……、直人君ね」
さすがはアンドロイド。データ検索のためにわずかな間があったが、一度も話しをしたことのないクラスメイトの名前を正確に言い当てる。
「土手滑り、楽しい?」
直人は頑張って言葉を紡ぐ。
「あなたには関係ないわ」
表情を少しも変えずに彼女は言う。そこに冷たさでもあれば、まだマシなような気がした。
しかし直人はめげずに言葉を続ける。
彼女は何も知らないアンドロイドだ。女子高生が制服姿で土手滑りをすることは、常識外れだと教えてあげなくてはいけない。
「あの……、それ、やめた方がいいよ。ほら、スカートの中が見えちゃうじゃん」
勇気を振り絞って忠告した。
もしかしたら恥じらいの表情が見れるかと思った。
しかし、その考えは間違いだった。
「見えるはずないわ」
返ってきたのは無表情の拒絶。
「このフライパンのフチの形状を考慮に入れれば、見えるはず無いの。もちろん柄の部分で生じる死角や、スカートの長さも計算に入れているわ。スカートのめくれ加減は、傾斜三十度で秒速十メートルの滑降速度以内であれば問題なし。あなたには全く関係ないわ」
いや、滑る時が問題なのではなくて、坂を上る時に後ろから丸見えなんだけど……
そんな突っ込みを入れたかったが、直人はやめておいた。
心を閉ざした彼女に、何を言っても無駄だった。
翌日。
学校での桜子はいつもの通りだった。
直人の二つ前の席で、非常に正しい姿勢で授業を聞いている。
ときどきフライパンを扇いでCPUを冷却しながら……
その姿を眺めながら、直人はずっと昨日の出来事を思い出していた。
あの笑顔は幻だったのか……?
桜子が機械的なのは、そのように造られているからとずっと思っていた。
しかし、そうではなかった。
彼女は美しい笑顔を持っている。
それは、クラスで自分だけが知っている事実。
なぜ彼女は子供だけに心を許すのだろう?
それとも、クラスメイトに心を閉ざしている方に何か理由があるのだろうか?
いずれにせよ、目蓋の裏に浮かんでくるのは昨日見た彼女の満面の笑顔だった。
きゃはははは!
「お姉ちゃん、もっと早くぅ~」
「今度のコースは急だよ~」
「見てなさい。地獄の果てまでまっしぐらよ!」
だから直人は今日も来てしまった、願石橋に。
桜子は相変わらずフライパンをソリにして子供達と遊んでいる。
あの笑顔をちょっとでも自分に向けてくれたなら……
欄干に体を預けながら、はしゃぐ彼女を眺め続ける。
(確かに滑っている時は、全然見えないなあ……)
直人の意識は、いつの間にか桜子のスカートの中に向いてしまっていた。
さすがは最新鋭のアンドロイド。『滑る時は見えない』という計算結果に間違いは無かった。
しかし、坂を上る時は無防備だ。
ひらひらと揺れるスカートの下から、チラチラと彼女の名前と同じ桜色の布地がその姿を覗かせている。
(彼女、気付いていないのかな……)
教えてあげなくては、と一瞬思ったが、昨日の彼女のセリフが直人の心に蘇る。
『あなたには関係ないわ』
あれは効いた。
背筋がぞぞぞっとした。
無表情の拒絶が、あれ程恐いものとは思わなかった。
そんなことを考えていると、直人の中にふと不安がよぎる。
自分は桜子の笑顔だけが見たいのだろうか?
実は、彼女の下着が見たいという欲求の方が大きいのでは?
それとも、クラスで自分しか彼女の笑顔を知らないというこの優越感に、浸っていたいだけなのだろうか?
山があれば登りたくなるように、人は難しいことにチャレンジしたくなるという。
自分に関心を示さない彼女を、なんとか振り向かせたいという気持ちもあるだろう。
今日も子供達に笑顔を振りまく桜子。
子供達には見せる笑顔を自分に向けてくれないのは、そんなやましい気持ちを彼女が感じ取っているからなのかもしれない。
いろんな不安が頭の中でグルグルと回り、直人はその場を一歩も動けずにいた。
それから一週間半くらいの間。
直人は桜子に声を掛けることもできず、願石橋の欄干でただ彼女を眺めているだけの放課後を過ごしていた。
そんなある日、ホームルームが終わっていつものように願石橋に向かおうとした直人を、桜子が呼び止めた。
どうしたんだろう……?
ドキドキしながら彼女の後を付いていくと、誰もいない校舎裏に辿り着く。
振り返った彼女は、いつもの無表情のままだった。
「もう願石橋には来ないで」
そして、いきなりの最後通告。
「なんで? あれから行ってないよ。それに僕の勝手だろ。君には関係ない」
直人はとぼけた。
毎日君を見ていた、なんて恥ずかしくて言えるわけがない。
いつも離れたところで眺めていたから、気付かれていない自信もあった。
「あなたはもう九回も来ている。だからもうダメ」
げっ……
バレバレじゃん。
恥ずかしさのあまり、直人は顔が紅潮する。
そしてその波が去ったかと思うと、入れ替わりに怒りがこみ上げて来た。
気付いていたならなぜ声を掛けてくれない?
九回も無視され続け、最後に干渉してくるとはどういうことだ。
「だから言ってるだろ、僕の勝手だって」
つい語気を荒立ててしまう。アンドロイド相手に無意味なこととはわかっているが……
「もう一度忠告するわ。これ以上あの橋に来ると、あなたのためにならない」
えっ? 何だって?
僕のためにならないだって?
それはどういうことだ?
土手滑りの現場をこれ以上僕に見られたくない、の間違いじゃないのか?
「なぜ?」
直人は素朴な疑問を投げつけた。
すると桜子は少し間を置いて、口を開いた。
「それは言えないわ」
おかしい。
彼女は何かを隠している。
人間だったら誤魔化すところをアンドロイドであるが故に嘘をつけず、『言えない』ことを正直に話してしまった感じだ。
(どうしたら願石橋に行ってはいけない理由を教えてくれるだろう……?)
そこで直人は、揺さぶりを掛けてみることにした。
「教えてくれなかったら行くよ、今日も願石橋にね」
「お願い、やめて。それだけは、やめて……」
桜子の表情が一瞬曇る。
そんなわずかな変化を直人は見逃さなかった。
彼女が直人に対して見せた、初めての人間らしい表情だった。
葛藤――人間で言えばそんな感情なのかもしれない。
あることと別のことが、心の中で衝突する。
機械で言えば、二つの命令のコンフリクト。
今の桜子は、そんな感じだった。
直人が願石橋に行ったならば、そこできっと何かが起こる。
それを直人に話してはいけないという命令と、話して彼を止めたいという命令がぶつかっている。
きっと彼女のCPUは、グルグルとめまぐるしく稼動しているに違いない。
その時、直人はふと思った。
彼女のフライパンを奪ったらどうなるのだろう?
コンフリクトを起こしている今なら、CPUが熱暴走を起こすかもしれない。
実際、今の彼女は頻繁にフライパンで扇いでいる。CPUが激しく発熱している証拠だ。
(試しにやってみるか……)
そこで直人は、一旦彼女を安心させることにした。
フライパンの動きが止まれば、奪い取る機会が訪れるかもしれない。
「じゃあ、もう願石橋に行くのはやめるよ。君がそこまで言うのなら」
「よかった……」
するとフライパンの動きが鈍った。
コンフリクトが解消されたためだ。
今だ!
直人は桜子からフライパンを奪い取る。
「あっ!?」
そしてバランスを崩した彼女は、直人の胸に倒れこむ形となった。
彼女の胸の部分が熱い……
どうやらCPUは胸にあるようだ。
「返して!」
「返したら、僕は願石橋に行くよ!」
巧みに彼女のコンフリクトを復活させる。しかもより複雑な形にして。
そして排熱をさらに悪くするため、胸を密着させようと彼女の肩に手を回した。
まるで恋人を抱きしめるような格好だ。
えっ!?
直人は驚いた。
アンドロイドというから、もっと硬い感触を予想していた。
しかし、直人の手を通して伝わってきたのは、華奢な、女子高生の肩そのものだった。
これ以上力を入れると壊れてしまいそうな……
そして胸に押し当てられる柔らかな感触。
パチン!!
その時、何かが弾ける音がした。
同時に彼女から力が抜け、直人に寄りかかってくる。
「桜子!」
直人は思わず叫んでいた。
壊れてしまったと思った。
しかし――
「大丈夫よ……、でも、もっとしっかり支えていて……」
耳元で聞こえる弱々しい彼女の声。
よかった、まだ壊れていない。
「わかったわ、全部話すわ……」
熱暴走のため、話してはいけないという命令が吹っ飛んだのだろう。
コンフリクトは解消された。命令の一つが消えるという形で。
桜子は、直人の腕に抱かれながらゆっくりと話し始めた。
「チラ見防止条例って知ってる?」
チラ見防止条例? なんだそりゃ?
でもどこかで聞いたことがある。
「そういえばこの間、テレビのニュースで見たような……」
そうだ、それは県が制定しようとしている条例だった。
女子高生のスカート丈がどんどん短くなっているため、チラ見が原因の交通事故が増えている。それを『見る側』からも規制しようという動きだ。
しかしその条例と彼女とは、どういう関係があるのだろう?
「私はね、チラ見の現状を調査するために造られたの」
それはどういうことだ?
すると土手でのあの行動は、すべて調査のために仕組まれたものだったのか?
「じゃあ、あの土手滑りは……?」
「そうよ、あなたの考えている通り。調査のための行動よ」
わざと制服姿で下着が見えそうな行動を取る。
そして、往来の人達がどんな反応をするかを観察し、記録を取っていたというのだ。
「……」
まんまと県の調査の策略に引っかかったような感じがして、直人は悶々とした感情に包まれる。
「私の体には沢山のセンサーが付いているの。往来の人達を観察記録するためのね。同時に百人の人達を個別に追尾できる機能を持っているわ」
そいつはすごい。
見つかっていないと思っていたのは、直人の自分勝手な思い込みだった。
実は詳細に記録が取られていたという事実に、直人の背筋は寒くなった。
「それでね、往来の人達がいつこちらを見たのかを個別に分析するわけ。下着が見えていた時間とその可視方位のデータとを照らし合わせながらね。その分析結果に基づいて、チラ見判定を行っているんだけど……」
彼女の説明は続く。
要するに、いつ誰がチラ見したのかが詳細にわかるということだ。
直人は次第にくらくらしてきた。
彼女が絶えず鋼鉄製のフライパンを持ち歩いているのも、未計測時に情報を遮断してセンサーを休ませるという目的があったのだ。
「私が得たデータではね、実に男の人の八十八パーセントがチラ見をしていたわ」
それは衝撃的な調査結果だった。
確かに彼女の言う通り、願石橋を渡るサラリーマンの多くはチラチラと桜子を見ていた。
でもそれは仕方が無いだろう。
可愛い女子高生がスカートをひらひらさせながら土手滑りをしているんだよ。
見るなと言う方が難しい。
逆に、九十パーセントを越えなかった方が奇跡ではないかと、直人は思った。
「それでね、チラ見には習慣性があるの。それについての調査も行っているわ」
なんでも顔認識を行い、同一人物が何回チラ見に訪れたのかも解析しているという。
「ねえ、ちょっと考えてみて。もし毎日のように女子高生のパンチラが見れそうな場所があったらどうする? 行くでしょ?」
いや、僕は君の笑顔が見たくてあの場所に、と言おうとして直人は口を閉じる。
彼女の下着を見なかったかと言われると、嘘になる。
その真偽は、恥ずかしながら彼女のデータが雄弁に語ってくれるだろう。
「そういうチラ見の常習者は、将来犯罪に走る可能性がある。のぞき、痴漢、ストーカー。そうならないように、特別な装置が私には仕掛けられているの」
特別な装置!?
いったいそれはなんだ?
「それはどんな……?」
直人はゴクリと唾を飲み込んだ。
「特殊ビームよ」
耳元の桜子の声が高揚する。まるで秘密兵器を取り出した時の正義のヒーローのようだ。
それにしてもビームって、なんだそりゃ? レーザービームとかそんなものか?
「チラ見の日数が十日に達するとね、下着の部分から特殊ビームが発射されるの。それは正確に常習者の網膜に情報を与え、サブリミナル効果を利用してその人を精神的に去勢するのよ。まあ、一種の催眠術ね」
「…………」
驚いた。
そんな装置が彼女には仕掛けられていたのか。
「その効果は?」
「効果はてきめんよ。今まで五人に照射したわ。精神的に去勢されるとね、チラ見をしたくなくなってしまうの。三人は来なくなって、あとの二人は通勤で橋を渡るけどこちらを見なくなったわ。それでね、その他にもレーザービームや中性子ビームとかもあるのよ……」
得意げに秘密兵器の説明を始める桜子。
もし、このことを知らずに今日も願石橋に出かけていたら、直人にも特殊ビームが照射されていた。
チラ見ができなくなるということは、土手滑りをする彼女の姿を見られなくなるということだ。
つまりそれは、彼女の笑顔が見られなくなるのと同じことだった。
ここで一つの疑問が浮上する。
特殊ビームが直人に照射されるのを、桜子はなぜ阻止しようとしたのだろう?
「なぜ、僕に教えてくれたんだ?」
「だって……、あなたは……、私に初めて真面目に忠告してくれた人だから……」
そうか、あの最初の時か……
『あなたには関係ないわ』と無表情に突き放されたと思っていたが、ちゃんと彼女の心に届いていたんだ。
勇気を振り絞ってよかった……
嬉しくなった直人は、抱きしめている手を緩めて彼女と向かい合う。 ちゃんとお礼が言いたかった。
すべてを告白し、研究所の呪縛から開放された桜子はまるで別人だった。
ほほを赤らめながら上目がちに微笑む桜子。直人がずっと待ち望んでいた瞬間だ。
直人はたちまち、愛しい気持ちで心が溢れそうになる。
そして見つめ合う二人。
言葉は要らなかった。
彼女が機械とは思えないほど心と心が通い合う。
ゆっくりと目を閉じる桜子。その桜色の唇に、直人は自分の唇をそっと合わせた……
「チラ見する人のデータに名前がインプットされているのは、あなただけなの……」
再び彼女を抱きしめると、今までの想いを吐き出すように桜子は語り始めた。
「だって、他の人は顔認識で判断しているだけでしょ。名前は分からない。あなたはね、顔と名前が一致している唯一の常習者なのよ」
いや、常習者扱いされるのは嫌なんですけど……
「それにね、あなたは常習者の中でもチラ見時間が一番長いの」
それって、パンツを一番長い間見ている人ってことじゃないですか。
そういえば、下着が本当に見えないのかってじっと観察していた時があった。その時にきっと、ポイントを稼ぎまくったのだろう。
直人はだんだん恥ずかしくなってきた。
「もういいよ、分かったから……」
「何を言いたいかというとね、私のデータはあなたの名前で一杯なの。直人、直人、直人、直人、直人、直人、直人……って感じ。あなたは私の中で溢れている……」
直人の腕の中で甘える桜子。
もしかするとずっと前からこうしたかったのかもしれない。
今の彼女はアンドロイドなんて硬いものではなく、か弱くて、愛しい、一人の女の子だった。
『下校時間となりました。校内に残っている生徒はすみやかに帰りましょう』
帰宅を促す校内放送が聞こえてくる。
「おい、桜子。調査はいいのか?」
「えっ?、あ……、だって、直人が来ちゃうから。あなたにビームは照射したくない……」
再び直人の胸に顔を埋める桜子。
さて、今日はどうしよう?
研究所の呪縛から開放された今の彼女なら、いつでも直人に笑顔を見せてくれるだろう。
それであれば、わざわざ願石橋に行く必要はない。
「忠告どおり今日は行かない。だってもう学校で仲良くできるんだろ。だから土手滑りに行ってきなよ、子供達も首を長くして待ってるぞ」
「う、うん……」
「じゃあ、明日は放課後に会おうよ。ココで待ってるからさ」
「あ……、うん、わかった……」
すると彼女はおもむろに顔を上げ、直人を見上げながら言った。
「ねえ、直人。最後に、もう一度キスしてくれる……?」
「ああ」
二人はそっと唇を交わす。長い長いキスだった。
「じゃあ、また明日。調査、頑張れよ!」
「さようなら……」
桜子はこちらを振り向くこともなく、走って行ってしまった。
ムフフフフ……
直人の頭の中は、先ほどの桜子とのことで一杯だった。
やっと彼女が笑顔を見せてくれた。
そして二回のキス。直人にとっては、もちろん初めてのことだった。
(桜子はぜんぜんアンドロイドっぽくなかったな……)
見つめ合うと心が通った。彼女が機械とはとても思えなかった。お互いの胸が熱い。そんな体験は初めてだった。
彼女を抱きしめた時の感触を思い出すと、つい顔がニヤニヤしてしまう。股間もパンパンに火照っていた。
(やべぇ、これじゃ人前に出れないよ……)
一人悶々としていた直人がフライパンの忘れ物に気付いたのは、桜子が帰ってしばらく経ってからだった。
「どうしよう、コレ……」
フライパンを片手に校門を出た直人は、歩きながら行き先に迷っていた。
(このフライパンが無いと、桜子は土手滑りができないぞ)
(土手まで届けた方がいいと思うけど、彼女の忠告を無視して行ってもいいのか?)
(さっきも『行かない』と宣言したばかりなのに……)
(案外、子供達にダンボールを借りて滑っているかもしれないぞ)
(チラ見訪問十回を達成するのは嫌だな……)
(去勢ビームを浴びたらどうしよう?)
(ビームは下着から発射されると言っていたから、パンツを見なければ大丈夫なんじゃないのか……)
あれこれと考えているうちに、いつの間にか直人は願石橋に着いていた。
きゃはははは!
想井川の土手では、今日も子供達が遊んでいる。
桜子は――見渡してもみつからない。
あれからここには来なかったのだろうか?
欄干に体を預けて川の流れに目を向ける。水面に夕陽が反射してオレンジ色にキラキラと光っていた。
今日は校舎裏で桜子と話しをしていたから、ここに来るのが遅くなってしまった。子供達はそろそろ帰る時間だ。
「バイバーイ!」
「じゃあね、また明日~」
おっと、子供達が帰ってしまう。
桜子が来たかどうかだけでも聞いてみよう。
直人はフライパンを持って子供達の方へ走り出した。
「ちょっと、君達~」
子供達が立ち止まり、少し警戒しながら直人の方を見る。
「いつもこれを持ってるお姉ちゃん、来なかった?」
フライパンを頭の上にかざすと、子供達の態度がガラリと変わる。
「あっ、お姉ちゃんのソリだ」
「違うよ、『地獄の片道チケット号』だよ」
「お兄ちゃんもそれで滑ってみてよ~」
口々に叫びながら直人を取り囲む子供達。その屈託のない笑顔が直人の心を洗っていく。
こんなにも好かれているんだ、桜子は……
そんな彼女とキスするくらい親密になった直人は、すでに子供達のヒーローになったような気分だった。
「ゴメン、ゴメン、今日は遊べないんだ。もう帰る時間だしね」
「ちぇ~」
「残念」
はははは、と笑いながら直人は肝心なことを子供達に聞いてみた。
「ねえ、今日はお姉ちゃん、来た?」
すると意外な答えが返ってきた。
「来たよ」
「うん、来た」
「でも、すぐに帰っちゃったんだよ」
「黒い車に乗って行っちゃった」
黒い車……?
直人の頭の中を不安がよぎる。
「それで、お姉ちゃん、ここで何してたの?」
「えっとねぇ、ずっと座ってた」
「そうそう、体育の時みたいに座って橋の方を見つめていたよ」
座ってた? 土手の上に?
橋の方を見ていたということは、直人が来るのを待っていたのだろうか?
(桜子も僕のことを待っていてくれたんだ。迷ってないで、もっと早く来るべきだった。子供達に見せつけるチャンスだったのに……)
直人の心に悔しさがこみ上げる。
「ありがとう、君達。いろいろと教えてくれて」
「ねえ、お兄ちゃんは明日も来る?」
「えっ?」
「そうだ、そうだ、明日も来てよ~」
そうか、そういう手もあった。
明日は桜子と一緒にここに来よう。そして一緒に土手滑りをすればいいんだ。
彼女と離れているからチラ見する。いつも近くに居れば、去勢ビームを浴びることはない。
子供達が帰った後、直人はそんなことを考えながら家路についた。
そして――
その日を境にして、桜子が学校に現れることは無かった。
翌日の朝のホームルームでは、担任から彼女の突然の転校が告げられる。
悲しむ者は、誰もいなかった。
関わりを持っていた人も誰もいなかった。
直人一人を除いて。
「ウソだろ……」
担任の言葉が信じられなかった。そんな事実は受け入れられなかった。
しかし桜子が居るべき席がずっと空いているのを眺めているうちに、喪失感がひたひたと直人を侵食した。
掴みかけた大切な大切なものが、するりと指の間からすり抜けてしまったような……
そういえば最後のキスの時、彼女の態度はなんだか歯切れが悪かった。もしかしたら、あの時すでに彼女は別れを予感していたのかもしれない。
(あのままずっと抱きしめていればよかった……)
直人の胸は、後悔と悲しみで引き裂かれそうだった。
諦めきれない直人は、担任から彼女の連絡先を聞き出した。
『この電話番号は現在使われておりません……』
何度かけても、無機質なアナウンスが響くだけ。
県の先端工学研究所にも連絡してみた。
『そんなアンドロイドは開発されていません』と門前払いだった。
施設内に入ることさえ許されなかった。
手がかりは途絶えた。
どこかの国に売られたという噂を聞いた。
機密漏えいでスクラップにされたという噂もあった。
噂が流れているうちはまだよかった。
しばらくすると話題にもならなくなり、クラスメイトの記憶から消え去っていった。
桜子を思い出すことのできる場所は、あの土手だけになった。
きゃはははは!
最後になって直人は願石橋にやって来た。手には彼女のフライパンを持って。
そこには何事もなかったように子供達の笑い声が響いていた。
「あっ、お兄ちゃんだ」
「遊ぼ、遊ぼ。一緒に遊ぼ!」
「お姉ちゃんはもう来ないの~?」
子供達が直人に気付き、声をかけた。
ちゃんと覚えていてくれたんだ……
直人を覚えていてくれたことよりも、桜子を覚えていてくれたことの方が嬉しかった。
ここには、彼女が存在した証があった。
すっかり嬉しくなった直人は、フライパンに座り子供達と一緒に土手滑りを始める。
が、すぐにバランスを崩しゴロゴロと坂を転げ落ちた。
こいつは超難しい~
直人はムキになって、何度も何度も土手滑りに挑戦した。
滑っている間は、悲しいことを忘れることができた。
夕方になり、夕陽が沈みかけると子供達は土手の上に並んで座り始めた。
「今日は天気がいいからアレが見れるよ」
「そうだね、きっと見れるよ」
「かーちゃん、今日の晩飯ラーメン丼って言ってたよ……」
「七時から放送の『特殊部隊チラミンジャー』楽しみだね~」
「チロの首輪が壊れちゃって……」
子供同士で勝手に会話を始める。
いったいこれから何が始まるんだろう?
何かが見られるらしいが、それは何なんだろう?
直人も子供達の傍に立つ。
すると一人の子供が橋の方を指さした。
「あっ、見えた!」
「見えた、見えた、『ありがとうちょくひと』だ」
えっ? どこ? 何も見えないけど……?
すると子供達に教えられた。
「お兄ちゃん、背が高いから見えないんだよ。座らなきゃダメだよ」
直人は言われる通りに土手の上に座る。そして子供達の指差す方を見ると――それはあった。
『ありがとう直人』
願石橋の側面全体を使って文字が刻まれていた。
橋に夕陽が当たって初めて浮かび上がる文字。
そしてそれは、この場所からしか見ることはできない。
きっと桜子が怪しいビームを照射して掘り込んだに違いない。夕陽が当たるとうっすらと影ができるようになっている。
そうか、最後の日にここに座っていたのは、これを掘っていたんだ……
「ありがとう、桜子……」
直人の頬を流れる涙は、しばらく止まることはなかった。
ライトノベル作法研究所 2010GW企画
ルール:学園を舞台とする
お題:「首輪」「ラーメン丼」「フライパン」「アンドロイド」「特殊部隊」「片道チケット」「ビーム」の中から三つ以上を選び使用する
コメント
_ へべれけ ― 2010年05月20日 01時14分35秒
_ ミナ・コレステロール ― 2010年05月21日 01時51分58秒
こんばんは。
「特殊部隊」の件ではご迷惑をおかけしました。
こんな悪玉コレステロールのコメントなんて、煮るなり焼くなりお気の召すように御調理くださいませ。
ええ、もしもお望みでしたら、
『フライパン桜子』を読んだら、
腰痛が治ったとか、
わたしにも彼氏が出来たとか、
宝くじが当たったとか、
嘘の体験談だって書いちゃいますから!
「特殊部隊」の件ではご迷惑をおかけしました。
こんな悪玉コレステロールのコメントなんて、煮るなり焼くなりお気の召すように御調理くださいませ。
ええ、もしもお望みでしたら、
『フライパン桜子』を読んだら、
腰痛が治ったとか、
わたしにも彼氏が出来たとか、
宝くじが当たったとか、
嘘の体験談だって書いちゃいますから!
_ ヴァッキーノ ― 2010年05月22日 19時42分47秒
つとさん
ラノベ大会、すごい高得点でしたよね。
いやあ、うらやましい!
誉められてつけ上がるタイプのボクなんてズタズタでしたあ(笑)
根本的な才能のなさに、チン●ンを見せびらかしたような恥ずかしさでいっぱいです。
そんなわで、つとさんへのラノベのコメントも恥ずかしいくらい
ヘンテコで的外れなものになってしまいました。
すみません。
ここに転載されるということで、気に入らないと思う部分は
削除しても結構です。
よろしくお願いします。
ラノベ大会、すごい高得点でしたよね。
いやあ、うらやましい!
誉められてつけ上がるタイプのボクなんてズタズタでしたあ(笑)
根本的な才能のなさに、チン●ンを見せびらかしたような恥ずかしさでいっぱいです。
そんなわで、つとさんへのラノベのコメントも恥ずかしいくらい
ヘンテコで的外れなものになってしまいました。
すみません。
ここに転載されるということで、気に入らないと思う部分は
削除しても結構です。
よろしくお願いします。
_ 前田なおや ― 2010年05月23日 15時36分27秒
呼ばれて飛び出て、前田なおやと言うものです。
ワシの感想でよかったら、好きに載せて下さってかまいません!
何ならワシの作品も一緒に(オイコラ
ワシの感想でよかったら、好きに載せて下さってかまいません!
何ならワシの作品も一緒に(オイコラ
_ 玖乃 ― 2010年05月24日 17時30分50秒
玖乃です。感想追記を読むのが遅れてしまい、こんな遅レスに……。あんな感想でよければどうぞお使いください。あの玖乃さんが絶賛!とかあの玖乃さんが高評価!とか入れちゃってもいいです。うそです。自重します。
では失礼しましたノシ
では失礼しましたノシ
_ くるくる ― 2010年05月24日 21時08分04秒
こんにちは、くるくるです。
感想の転載の件ですが、僕は大丈夫です。
あんな感想でよろしければ、お使いください。
執筆お疲れさまでした!
感想の転載の件ですが、僕は大丈夫です。
あんな感想でよろしければ、お使いください。
執筆お疲れさまでした!
_ フェルト雲 ― 2010年05月26日 11時38分28秒
お返事遅くなってごめんなさい!
私のあのような乱文でよければどうぞ、載せてくださいませ。
お目汚しにならないか心配ですけれども汗。
これからも面白いものを書いていけるように、お互い頑張りましょう~
私のあのような乱文でよければどうぞ、載せてくださいませ。
お目汚しにならないか心配ですけれども汗。
これからも面白いものを書いていけるように、お互い頑張りましょう~
_ akk ― 2010年06月06日 15時42分51秒
お返事が遅くなりました。
akkと申します。
私の駄感想で良ければ、煮るなり焼くなり掲載するなり好きにしてくださいませ。
またどこかでお会いした際は宜しくお願いいたします。お互い切磋琢磨してまいりましょう。
つとむュー様のさらなるご活躍を陰ながら応援しております。
乱文失礼いたしました。
akkと申します。
私の駄感想で良ければ、煮るなり焼くなり掲載するなり好きにしてくださいませ。
またどこかでお会いした際は宜しくお願いいたします。お互い切磋琢磨してまいりましょう。
つとむュー様のさらなるご活躍を陰ながら応援しております。
乱文失礼いたしました。
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コメントを読ませていただき参上しましたしだいです。
ご依頼の件ですがOKです。
あんな乱文でよろしければご自由にお使いください。
袖ふれあうも多少の縁。
かげながらあなたの執筆を応援させていただきます。
ではでは。