最終電車2013年05月20日 21時29分38秒

 お目当てのローカル線に乗り換えるため山間の駅で降りる。一日五往復しか走らない、炭鉱のある街へと続く路線。その線路の直上には、一本の電線が線路に沿って延びていた。
「ほお、あんたも珍しいかね? その電線が」
「ええ、見るのは初めてです。僕は都会育ちですから」
 こんな風景、もう都会では見ることはできない。

 二〇五×年。電磁波に対して極端に耐性の低い赤ちゃんが生まれはじめた。
 子供達の命を守るため、無線方式の通信インフラは廃止。電磁波を垂れ流す電車も、都会からだんだんと姿を消していった。
 電車の運行が許されたのは、電磁波密度の低い田舎の路線のみ。しかし全廃は時間の問題だった。

「ここの電車も、来年には廃止になるんですよね?」
「そうみたいじゃの」
 ゴトンゴトンと駅に近づいて来る電車。それと共に胸がなんだか苦しくなってくる。
「どうしたんかね? 顔が真っ青じゃぞ」
「だ、大丈夫です……」
 必死に平静を装う。だってずっと待ち望んでいた電車体験だから。こんな僕達のために廃止されるなんて本当に残念だから。
 小さな電車はゆっくりと出発する。シートに深く腰かけた僕は、意識を失うまでの間、揺れる景色を瞳に焼き付けていた。



500文字の心臓 第122回「最終電車」投稿作品

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://tsutomyu.asablo.jp/blog/2013/05/20/6816585/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。