水色の散歩道2017年12月20日 01時00分02秒

 N社が大層美しい遊歩道を寄贈したということで、その記者会見に出席した。
「今回、弊社がS市に施設したのは空色の散歩道です。絶景で有名なウユニ塩湖のような体験をお楽しみいただけます」
 ほお、それはすごい。一体どんな散歩道なのか。
「それを可能にしたのは弊社のミラーシート技術です。全長五キロに及ぶ歩道に取り付けました」
 ミラーシートだって?
 すると女性記者が質問する。
「あのう、それってスカートの中も丸見えってことですか?」
「それにはご心配なく。歩道は凸面となっており下着が凝視されることはありません。また弊社の技術力をしても傷には勝てず、鏡としての性能はすぐに劣化します」
 ため息に包まれる会場。一体どの部分に落胆したのか。
「しかし散歩道の本領発揮はここからです。注目は雨上がり。ウユニ塩湖の輝きを取り戻すのです」
 ほお、雨上がりが見頃とはなんとも一興な。
「なぜS市が選ばれたのですか?」
「天空率の高いS市の地理が適していたからです」
 確かにこれは重要だ。
 しかし真の意味を知るのは後日、飛行機で上空を通過した時だった。
「これがやりたかったのか……」
 S市の街並みの中でキラキラと輝いていたのは巨大なN社のロゴだった。



500文字の心臓 第159回「水色の散歩道」投稿作品

出てって2017年10月24日 07時55分52秒

 井戸の中を覗いたら中から声が聞こえてきた。
「出てって」
 いやいや、俺は中になんて入ってないし、入るつもりもない。
 不思議に思っていると、真っ暗な井戸の底から異様な熱気が込み上げて来る。
 俺は慌てて後ずさった。なにか得体の知れないものが出てくるような気がしたのだ。
「出てって!」
 引き続き声がする。通告を受けているのは俺ではなく、まだ地下に留まっている何かのようだ。
 その正体は何? 幽霊? それとも妖怪?
 そんな恐ろしいものが出てきたとしても、ちらっと見てみたい衝動に俺は駆られていた。
「出てってよ!」
 繰り返すその退出通告は、予想外に太くて低い声だったから。

(追記11/17:haruさんに朗読していただきました)



500文字の心臓 第158回「出てって」投稿作品

百年と八日目の蝉2017年08月30日 22時14分12秒

「博士、すごい発見をしました!」
「おお、何の発見じゃ?」
「最近、蝉の成虫の寿命がのびているんです。この十年間で、確実に二時間半ほどのびました!」
「おお、すごいぞ。ということは、百年経てば寿命が一日以上のびるということじゃな」
「そうなんです、博士。『蝉の寿命は一週間』という定説が崩れるんです」

 九十年後。
「博士、ついに蝉の成虫の寿命は百年前よりも二十五時間のびました!」
「おお、地道な研究が実を結んだの。これで定説が崩れた、すぐに論文発表じゃ!」
「はい。でも、人間の寿命ののびに比べたら微々たるものですが・・・」



500文字の心臓 第157回「百年と八日目の蝉」投稿作品

永遠凝視者2017年07月03日 20時51分30秒

 サラリーマンが行き交う週明けの駅前に預言者が現れた。
 なんでも、遥か未来のことをピタリと言い当てるそうだ。
「七百兆日後の世界は……」
 なっ、七百兆日といえば、二兆年後じゃないか。
「月曜日です」
 人類が生きていればな。



500文字の心臓 第156回「永遠凝視者」投稿作品

投網観光開発2017年05月07日 18時51分41秒

 小さな漁村、茨北村に若者が押し寄せるようになったのは一週間前のこと。困惑した漁師達が派出所に押しかけた。
「最近なんで若者が村に来るのか教えてくんねえか?」
「ちょっと待って下さい……」
 赴任したばかりの新人巡査はスマホで調べ始める。
「どうやら、ポキモンVRというゲームが原因らしいですね」
 巡査が示す画面には一軒の漁具店が紹介されていた。
「それ、俺の店だっぺ」
「魚吉の網がすごい、って書いてありますよ」
「そのゲームと網が関係あんのけ?」
「えーと、魚吉の網は使い易くて大きなポキモンが獲れる? へぇ〜、ポキモンを捕まえる道具は、実物の写真を三方向から撮らないといけないらしいですね」
「写真を? 道理で若者が店に来て、網の前で何かやってるわけだ」
「魚吉の網を使ってみた動画も載ってますよ」
 そこには公園で大きなゴーグルを付けて腕を振る若者達の姿が。
「なんだい、こりゃ随分と屁っ放り腰だなぁ」
「網の打ち方、教えてあげたらいいんじゃないですか? 一時間千円くらいで」
「おお、それはいい案だっぺ」
「んだ、皆でやっぺよ」
 こうして茨北村は世界でも有名な漁村となった。投網の魅力に取り憑かれて永住を決めた外国人もいるという。



500文字の心臓 第155回「投網観光開発」投稿作品