ぺぺぺぺぺ2018年07月16日 12時42分51秒

 憧れの純白の大地が近づくと、氷上をぴょこぴょこと歩く黒い影が見えてきた。私は調査隊員に尋ねる。
「おおっ! あれはペンギン?」
「ですね。ペリングスハウゼン・ペンギンという種類です」
「ペリングス……?」
「あはははは。我々はぺペンギンって呼んでますよ」
 ぺペンギンの群れをよく見ると、何匹か別の種類が混ざっていることに気が付いた。白い胸の羽毛の中心に、黄色い斑点が一つ輝いている。
「あのペンギン、可愛いな」
「ペニー・ペンダント・ペンギンですね。私も好きなんです」
 我々に気付いたペンギンたち。遠くに見える高台を目指して駆け出した。
「あの高台は?」
「ああ、あれは半島です。ペンシルベニア・ペテルブルグ・ペントランド・ペニンシュラって言うんです」
 なんだよ、その名前。未開の地に故郷の名前を付けるって、よくあるアレか?
「あそこには温泉が湧いておりまして、幾つかの国が半島を取り合った結果、そんな名前になっちゃったんです」
 なに? こんなところに温泉が湧いているのか?
「しかも、あの半島にも固有種がいるんですよ。名前は……」
「わかった、ペペペペペンギンだろ?」
「いえ、ペペペペペリカンです」



500文字の心臓 第163回「ぺぺぺぺぺ」投稿作品

魚と眠る2018年05月31日 06時10分46秒

 その岬の先端には小さな墓標があった。御影石に刻まれた文字は月日を経ておぼろげに故人の名前を記す。
「それはな、ある先生の墓じゃ」
 老婆が言うには、潮がぶつかるこの岬はいろいろな魚が獲れる良い漁場だという。天領として幕府に保護されていたが、同時に潮の流れが複雑で遭難事故が絶えなかったらしい。
「先生はな、ここに住居を構え観測に人生を費やし、複雑な流れを解き明かして多くの漁師を救ったのじゃ」
 晩年は、潮の香りだけで岬周辺の魚群の種類をピタリと当てたという。
「まるで、魚を我が家に招いているようじゃったと聞いておる」
 魚先生。そう呼ばれた彼が眠るこの岬。今日もいい風が吹いている。

(追記6/29:haruさんに朗読していただきました)



500文字の心臓 第162回「魚と眠る」投稿作品

テーマは自由2018年04月02日 20時29分09秒

「新製品のテーマは『自由』だ」
 開発主任の宣言に、ラボはざわついた。
「自由って、行動パターンが、ですか?」
「ペットロボットなのに?」
 ざわつくのも無理はない。前作で、飼い主に好かれる行動パターンを散々ラボメンバーに要求してきたのは、開発主任その人なのだから。
「これは社長からの命令なのだ」
 前作の動きが動物そのものだったことに驚いた社長は、極秘プロジェクトを発動させた。
「ネコのように社会に溶け込ませる」
 日本ではそんなに需要は無いかもしれない。が、世界は違う。人々に気付かれることなく目的を遂行できるツールを、権力者や富豪は欲していた。

 一年後。
「社長。ようやく試作機が完成しました」
「どれどれ? おお、これはすごい。まさにネコそのものじゃないか!?」
「我が社のAI技術とメンバーの努力の賜物です」
「よし、一ヶ月後に実証実験だ。警察や自治体には内緒だから、失敗は許されないぞ」
「わかりました、社長」
 そして一ヶ月後。
「なんだ、あのぎこちない動きは!? 試作時の滑らかさはどうした!?」
「それなんですが、よりネコらしくなるよう思考パターンも『自由』に設定したところ、ネコと思われることを急に嫌がりまして……」



500文字の心臓 第161回「テーマは自由」投稿作品

タルタルソース2018年03月04日 23時33分24秒

『君も仲間にならないか?』
『レッドの言う通りだ。望むなら受け入れるぜ』
『俺たち皆、個性的だしな』
『ロボの中は快適だよ。カレーも食べ放題』
『美味しいスイーツもあるわよ〜』

「うわぁ」
「ど、どうしたカキ怪人。夢でうなされてたぞ」
「最近、戦隊の奴らが俺のことを懐柔してくるんだよ」
「何? そんな戦法を使うようになったのか。それにしてもお前、心動かされてないか?」
「そ、そんなことないよ。ロボには乗ってみたいけど」
「それより、おたふくライダーとの闘いはどうなったんだ?」
「え? あいつ? 奴もキャラが濃いけど一本調子なんだよね。闘ってて飽きるというか……」
「それで戦隊に魅了されちまったと」
「何が魅力かというと、あのロボだ。こんな俺でも優しく包み込んでくれるような気がする。そして俺に負けないくらい個性的なメンバー。きっと仲良くなれるんじゃないかな」
「そうだな、最近こっちの仲間も減ってきたことだし」
「おっ、乗り気になった? アジ怪人も一緒に行くか?」
「うーん、それもいいかも。じゃあ今度の闘いの時に言っといてよ、俺も行くって」
 そして後日。
「ごめん、アジ怪人。俺たち生じゃダメだってよ……」



500文字の心臓 第160回「タルタルソース」投稿作品

水色の散歩道2017年12月20日 01時00分02秒

 N社が大層美しい遊歩道を寄贈したということで、その記者会見に出席した。
「今回、弊社がS市に施設したのは空色の散歩道です。絶景で有名なウユニ塩湖のような体験をお楽しみいただけます」
 ほお、それはすごい。一体どんな散歩道なのか。
「それを可能にしたのは弊社のミラーシート技術です。全長五キロに及ぶ歩道に取り付けました」
 ミラーシートだって?
 すると女性記者が質問する。
「あのう、それってスカートの中も丸見えってことですか?」
「それにはご心配なく。歩道は凸面となっており下着が凝視されることはありません。また弊社の技術力をしても傷には勝てず、鏡としての性能はすぐに劣化します」
 ため息に包まれる会場。一体どの部分に落胆したのか。
「しかし散歩道の本領発揮はここからです。注目は雨上がり。ウユニ塩湖の輝きを取り戻すのです」
 ほお、雨上がりが見頃とはなんとも一興な。
「なぜS市が選ばれたのですか?」
「天空率の高いS市の地理が適していたからです」
 確かにこれは重要だ。
 しかし真の意味を知るのは後日、飛行機で上空を通過した時だった。
「これがやりたかったのか……」
 S市の街並みの中でキラキラと輝いていたのは巨大なN社のロゴだった。



500文字の心臓 第159回「水色の散歩道」投稿作品