ロココのココロ2016年07月28日 20時47分23秒

「これは?」
「あいてません」
「じゃあ、これ?」
「左」
「これ?」
「左」
「次は分かる?」
「うーん……」
 視力検査は苦手だ。
 だんだんと小さくなるマーク。矢継ぎ早に質問する検査官。
 そのプレッシャーが私を押しつぶそうとする。
「下……ですか?」
 最後のマークを、私は適当に答えてしまった。
「次は反対の目で。これは?」
「左」
「じゃあ、これ?」
「左」
「これは?」
「あいてません……」
 やっとのことで検査から解放され、ほっとする私の耳にクラスメートの話声が飛び込んでくる。
「ねえ、今日の視力検査、平仮名の『の』が混ざって無かった?」
「ええっ、そんなのあったっけ?」
「ほら、最後の視力二・〇のやつ」
「そこまで見えるの、あんただけよ」
 それって……?
 私が適当に答えた一番下のやつ?
 確かめようと視力検査場を向いてみるが、離れたこの場所からは確かめることなんてできる訳が無い。
「あいてません、左、左、えっと、えっと、次は……」
 あんなに嫌だった視力検査の声につい耳を傾けてしまうのは、なんとも不思議な気持ちだった。



500文字の心臓 第149回「ロココのココロ」投稿作品

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