妖精をつかまえる。 ― 2013年03月03日 23時53分24秒
「お庭を歩きたい……」
青い顔をしてベッドに横たわる君がぽつりとつぶやいたのは、去年の五月の昼下がりだった。彼女の両親の表情を伺うと静かに頷いている。二人とも目に涙をためながら。
「じゃあ、庭まで抱っこしてあげるよ」
そっと君を抱き上げて英国風の庭に出ると、春の日差しが僕たちを包み込んだ。中央の池へと続く、よく手入れされた小路の両側には薔薇が咲いている。
「まあ、綺麗」
自分の足で薔薇を愛でたいと君は体をくねらせた。
「少しだけだからね」
痩せこけた君の肢体を包む純白のネグリジェ。五月の風にふわりと膨らんだと思うと、よろけた君は生垣に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫!?」
「ううん、痛くないの。私ね、薔薇に体をうずめるのって、昔から夢だった」
だってもう君の体は何も感じられないのだから。
「あはは、あはは……」
棘で血だらけになりながら歩き出す君。純白に映える赤に目を奪われた僕は、我に返って君を追いかける。
「ダメよ、つかまってあげないんだから」
いたずらっ子ような無邪気な笑顔が愛しくて切なくて、僕は思わず君を抱きしめた。
「つかまっちゃった……」
君の最期の言葉が今でも耳から離れない。
(追記9/26:haruさんに朗読していただきました)
500文字の心臓 第120回「妖精をつかまえる。」投稿作品
青い顔をしてベッドに横たわる君がぽつりとつぶやいたのは、去年の五月の昼下がりだった。彼女の両親の表情を伺うと静かに頷いている。二人とも目に涙をためながら。
「じゃあ、庭まで抱っこしてあげるよ」
そっと君を抱き上げて英国風の庭に出ると、春の日差しが僕たちを包み込んだ。中央の池へと続く、よく手入れされた小路の両側には薔薇が咲いている。
「まあ、綺麗」
自分の足で薔薇を愛でたいと君は体をくねらせた。
「少しだけだからね」
痩せこけた君の肢体を包む純白のネグリジェ。五月の風にふわりと膨らんだと思うと、よろけた君は生垣に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫!?」
「ううん、痛くないの。私ね、薔薇に体をうずめるのって、昔から夢だった」
だってもう君の体は何も感じられないのだから。
「あはは、あはは……」
棘で血だらけになりながら歩き出す君。純白に映える赤に目を奪われた僕は、我に返って君を追いかける。
「ダメよ、つかまってあげないんだから」
いたずらっ子ような無邪気な笑顔が愛しくて切なくて、僕は思わず君を抱きしめた。
「つかまっちゃった……」
君の最期の言葉が今でも耳から離れない。
(追記9/26:haruさんに朗読していただきました)
500文字の心臓 第120回「妖精をつかまえる。」投稿作品
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://tsutomyu.asablo.jp/blog/2013/03/03/6736519/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。