日本の10番を背負う男2018年09月11日 23時18分31秒

 時は二◯二◯年八月。東京オリンピックのサッカー男子決勝戦が、新国立競技場で行われていた。
 決勝まで勝ち進んだ日本と対戦するのはベルギー。二年前のロシアワールドカップを再現するかのように、試合が進行していく。
 前半はゼロ対ゼロ。後半になって日本が二点先制するも、ベルギーに追いつかれる。そして後半アディッショナルタイムで日本はコーナーキックを獲得し、俺は並々ならぬ決意を固めていた。

 ――このチャンスを、絶対俺が決めてやる!

 二年前のワールドカップでは、コーナーキックをキーパーにキャッチされ、高速カウンターを食らって日本は敗れ去った。だから今回は決して、キーパーにキャッチされてはいけないのだ。
 いや、そんな「~されてはいけない」なんてネガティブな感情ではダメだ。ここで得点を決めてやる。そうすれば日本は勝ち越し、金メダルをたぐり寄せることができる。それほどの決意でなきゃ、キーパーのキャッチを防ぐことはできない。
 俺は背番号10。日本中の期待を背負った男。
 身長一メートル九十センチという恵まれた体格を生かし、ロシアワールドカップの得点王のイングランドのエース、ハリー・エドワード・ケインをお手本にして、どんな屈強なヨーロッパ人にも当たり負けしない体を作り上げた。タイミング良く飛び上がることができれば、誰も俺のヘディングを止めることはできない。

『さあ、後半最後の日本のチャンス。ボールがコーナーから放たれました!』

 マークに付いたベルギーディフェンダーを振り切ると、俺は渾身の力を込めて踏み切った。幸い誰にも体をつけられることなく、フリーで空中に飛び上がる。
 そして俺の頭めがけて飛んできたボールを、ゴールの隅に叩きつけたのだ。

『ゴール、ゴール、ゴール! 日本、後半アディッショナルで決定的な追加点!! ケインを彷彿させる見事なヘッドだ。日本の10番が金メダルをぐっと引き寄せました!』

 コーナーフラッグに向かって走り、仲間と抱き合って喜ぶ俺に、各国からの観客の熱い声援が飛んでくる。
「ナイスゴール、ケイン!」
「ケイン、ビューリフォーヘッド!!」
 だから俺はケインじゃねえって。
 俺の苗字は『金(KANE)』。日本の10番を背負う男。何回言えば分かってくれるんだ?


ライトノベル作法研究所 2018夏企画
テーマ:『金』

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