シェルター2012年09月16日 20時15分12秒

「ママ、僕はね、あのテントウムシのがいい!」
 息子の塩斗が、妻にねだるように赤いシェルターを指さす。
「じゃあ、海妙ちゃんはどれがいい?」
「しーたはね、あの貝のがいい!」
 海妙が指さしたのは、その隣の白いシェルターだった。
 俺達家族は今、ホームセンターに来ている。原発周辺の住民には、国の援助で避難用シェルターが無料で提供されることになったからだ。シェルターには、放射性物質が降り注いでも四人家族が一週間暮らせる機能が付いている。
「えー、貝の形なんて嫌だよ」
 塩斗が口を尖らせると、海妙も負けじと反論した。
「そるとにいちゃんのいじわる。しーたはぜったい、貝がいいんだから」
「海妙はなんでもかんでも貝じゃないか。ここは僕に選ばせてよ」
「貝、貝、貝、貝! 貝じゃなきゃぜったいいやっ!」
 すると困った妻が、海妙をなだめるように口を開いた。
「海妙ちゃんは本当に貝が好きなのね。じゃあ、今度生まれてくる弟の名前に貝を付けてあげるから、今回はお兄ちゃんのテントウムシで我慢して?」
 貝太。
 妻が考えているのは、きっとまたそんな名前に違いない。



500文字の心臓 第116回「シェルター」投稿作品☆逆選王

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