エとセとラ2018年10月25日 21時45分16秒

鉛筆と 染筆どちらも 乱筆ね

「なかなかやるわね、江川さん」
「詠んだ内容は救い難いけどね。次は瀬川さんの番よ」
「なになに? 何やってんの?」

得たいなら 世態を気にせず 裸体よね

「やっぱり最終兵器はこれでしょ」
「まあね。次いくわよ」
「川柳大会? 仲間に入れてよ〜」

エイト付け 生徒が守った ライトゾーン

「最後が字余りね。それにエイトを付けるのはセンターではなくて?」
「そうよ。だってこれは大谷シフトを詠んだ句だもの」
「もう、無視しないでよっ!」
「では、あなたもやってみる?」
「ルールはわかってるよね?」
「なんとなく。じゃあ、いくよ!」

江川変 瀬川も変だよ 俺ラガー

「男かよっ!」
「俳句かよっ!」



500文字の心臓 第165回「エとセとラ」投稿作品☆逆選王

明日の猫へ2018年09月13日 23時04分19秒

「あっ!」
 小学生の娘が旅行先で叫んだ。
「子供部屋のカーテン、開けたままだ……」
 それは南向きの窓だった。
「なにか困ることでもあるのか?」
 すると娘は泣き出す。
「ごめんなさいパパ。金魚鉢を置いたままなの」
 金魚鉢って窓際に!?
「それって去年買ったやつか?」
「うん」
 それはマズい。あれは典型的な球形だった。
「頼む、明日の天気を調べてくれ。自宅周辺の」
 俺は血相を変え妻を向く。
「ちょっと待ってて」
 もし晴れだったらヤバい。金魚鉢レンズで自宅が火事になる。
「今日は雨だけど、明日の降水確率は五十パーセントだって」
 それって、まるでシュレディンガーの猫じゃないか。
「緑ちゃん、暑くて死んじゃうよ」
「だよな、マズいよな」
 泣きじゃくる娘をなだめながら考える。
 ――旅行を中止するか否か?
 すると妻が娘に言った。
「緑ちゃんなら平気よ。甲羅干ししてたりね」
 へっ? それって……
「緑ちゃんって亀?」
「ママが夏祭りですくったの忘れたの?」
 そうだっけ? でも亀ならレンズにならないなと俺は胸をなでおろす。
 しかし娘はお冠。
「パパもママも大っ嫌い。私、絶対帰る!」
 明日の猫はやはり予測不能だった。



500文字の心臓 第164回「明日の猫へ」投稿作品

日本の10番を背負う男2018年09月11日 23時18分31秒

 時は二◯二◯年八月。東京オリンピックのサッカー男子決勝戦が、新国立競技場で行われていた。
 決勝まで勝ち進んだ日本と対戦するのはベルギー。二年前のロシアワールドカップを再現するかのように、試合が進行していく。
 前半はゼロ対ゼロ。後半になって日本が二点先制するも、ベルギーに追いつかれる。そして後半アディッショナルタイムで日本はコーナーキックを獲得し、俺は並々ならぬ決意を固めていた。

 ――このチャンスを、絶対俺が決めてやる!

 二年前のワールドカップでは、コーナーキックをキーパーにキャッチされ、高速カウンターを食らって日本は敗れ去った。だから今回は決して、キーパーにキャッチされてはいけないのだ。
 いや、そんな「~されてはいけない」なんてネガティブな感情ではダメだ。ここで得点を決めてやる。そうすれば日本は勝ち越し、金メダルをたぐり寄せることができる。それほどの決意でなきゃ、キーパーのキャッチを防ぐことはできない。
 俺は背番号10。日本中の期待を背負った男。
 身長一メートル九十センチという恵まれた体格を生かし、ロシアワールドカップの得点王のイングランドのエース、ハリー・エドワード・ケインをお手本にして、どんな屈強なヨーロッパ人にも当たり負けしない体を作り上げた。タイミング良く飛び上がることができれば、誰も俺のヘディングを止めることはできない。

『さあ、後半最後の日本のチャンス。ボールがコーナーから放たれました!』

 マークに付いたベルギーディフェンダーを振り切ると、俺は渾身の力を込めて踏み切った。幸い誰にも体をつけられることなく、フリーで空中に飛び上がる。
 そして俺の頭めがけて飛んできたボールを、ゴールの隅に叩きつけたのだ。

『ゴール、ゴール、ゴール! 日本、後半アディッショナルで決定的な追加点!! ケインを彷彿させる見事なヘッドだ。日本の10番が金メダルをぐっと引き寄せました!』

 コーナーフラッグに向かって走り、仲間と抱き合って喜ぶ俺に、各国からの観客の熱い声援が飛んでくる。
「ナイスゴール、ケイン!」
「ケイン、ビューリフォーヘッド!!」
 だから俺はケインじゃねえって。
 俺の苗字は『金(KANE)』。日本の10番を背負う男。何回言えば分かってくれるんだ?


ライトノベル作法研究所 2018夏企画
テーマ:『金』

ぺぺぺぺぺ2018年07月16日 12時42分51秒

 憧れの純白の大地が近づくと、氷上をぴょこぴょこと歩く黒い影が見えてきた。私は調査隊員に尋ねる。
「おおっ! あれはペンギン?」
「ですね。ペリングスハウゼン・ペンギンという種類です」
「ペリングス……?」
「あはははは。我々はぺペンギンって呼んでますよ」
 ぺペンギンの群れをよく見ると、何匹か別の種類が混ざっていることに気が付いた。白い胸の羽毛の中心に、黄色い斑点が一つ輝いている。
「あのペンギン、可愛いな」
「ペニー・ペンダント・ペンギンですね。私も好きなんです」
 我々に気付いたペンギンたち。遠くに見える高台を目指して駆け出した。
「あの高台は?」
「ああ、あれは半島です。ペンシルベニア・ペテルブルグ・ペントランド・ペニンシュラって言うんです」
 なんだよ、その名前。未開の地に故郷の名前を付けるって、よくあるアレか?
「あそこには温泉が湧いておりまして、幾つかの国が半島を取り合った結果、そんな名前になっちゃったんです」
 なに? こんなところに温泉が湧いているのか?
「しかも、あの半島にも固有種がいるんですよ。名前は……」
「わかった、ペペペペペンギンだろ?」
「いえ、ペペペペペリカンです」



500文字の心臓 第163回「ぺぺぺぺぺ」投稿作品

魚と眠る2018年05月31日 06時10分46秒

 その岬の先端には小さな墓標があった。御影石に刻まれた文字は月日を経ておぼろげに故人の名前を記す。
「それはな、ある先生の墓じゃ」
 老婆が言うには、潮がぶつかるこの岬はいろいろな魚が獲れる良い漁場だという。天領として幕府に保護されていたが、同時に潮の流れが複雑で遭難事故が絶えなかったらしい。
「先生はな、ここに住居を構え観測に人生を費やし、複雑な流れを解き明かして多くの漁師を救ったのじゃ」
 晩年は、潮の香りだけで岬周辺の魚群の種類をピタリと当てたという。
「まるで、魚を我が家に招いているようじゃったと聞いておる」
 魚先生。そう呼ばれた彼が眠るこの岬。今日もいい風が吹いている。

(追記6/29:haruさんに朗読していただきました)



500文字の心臓 第162回「魚と眠る」投稿作品