さかもりあがり ― 2019年08月13日 07時29分33秒
『盛って盛り上がった彼のそれは……』
「何だ? この文は?」
編集長はしかめっ面で原稿を机に置いた。面倒臭そうに担当編集者は答える。
「漢字の重複のところですよね?」
「そうだ。これでは『炎天下の下』みたいじゃないか」
「私もその違和感を伝えたのですが、作家先生は全く聞く耳を持ってくれなくて。意味が違うって言うんです」
「意味が違う?」
「そうです。『盛って』は行為を、『盛り上がって』は状態を示すとか」
「同じじゃないか」
「でも、「修正なんてしない」の一点張りで。原稿を引き上げるとまで言われました」
「全くしょうがないな、あの先生は」
「ですよね……」
すると編集長が「そうだ」と手を打つ。何か思いついたようだ。
「フリガナを振るというのはどうだ?」
「と言いますと?」
「最初の『盛って』のところに『さかって』とフリガナを振るんだよ。間違ったフリして」
「ちょ、ちょっと待って下さい。そしたら意味が全然変わって……」
「そっちの方が面白いじゃないか。私が許可する」
『盛って盛り上がった彼のそれは、古墳の中でも一際そそり立っていて……』
500文字の心臓 第170回「さかもりあがり」投稿作品
「何だ? この文は?」
編集長はしかめっ面で原稿を机に置いた。面倒臭そうに担当編集者は答える。
「漢字の重複のところですよね?」
「そうだ。これでは『炎天下の下』みたいじゃないか」
「私もその違和感を伝えたのですが、作家先生は全く聞く耳を持ってくれなくて。意味が違うって言うんです」
「意味が違う?」
「そうです。『盛って』は行為を、『盛り上がって』は状態を示すとか」
「同じじゃないか」
「でも、「修正なんてしない」の一点張りで。原稿を引き上げるとまで言われました」
「全くしょうがないな、あの先生は」
「ですよね……」
すると編集長が「そうだ」と手を打つ。何か思いついたようだ。
「フリガナを振るというのはどうだ?」
「と言いますと?」
「最初の『盛って』のところに『さかって』とフリガナを振るんだよ。間違ったフリして」
「ちょ、ちょっと待って下さい。そしたら意味が全然変わって……」
「そっちの方が面白いじゃないか。私が許可する」
『盛って盛り上がった彼のそれは、古墳の中でも一際そそり立っていて……』
500文字の心臓 第170回「さかもりあがり」投稿作品
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