神のぞみ知る ― 2016年05月09日 06時31分40秒
僕が真奈美をおんぶすると、彼女は耳元で小さくささやいた。
「どう? 新次郎くん」
「どうって、何が?」
すると真奈美は照れながら、途切れ途切れに言葉を発する。
「あ、あのね、わ、私、昔に比べて、お、お、おっきくなったの……」
おっきくなったって?
確かに高校生になって真奈美は背が高くなった。でも幼馴染だから、僕も一緒に背が高くなってるんだけど。おんぶする感覚も、昔とあまり変わらない。
ん? 待てよ。
言われてみれば、確かに大きくなったような気がする。彼女のお尻に回した両手は、なかなか指先を合わすことができないでいた。
「ホントだ。昔に比べて大きくなったね、お尻が」
「なっ!?」
言葉を詰まらす真奈美。
彼女はいきなり僕の首に腕を回し、ギリギリと力を込め始めた。
「く、苦しい! 苦しいよ、真奈美……」
「大きいってそっちじゃないでしょ!? ほら、感じなさいよ、味わいなさいよ、想像しなさいよ、私の成長の証をっ!!」
「ぐ、ぐぐっ、ぐほっ……」
何か柔らかいものが背中に押し当てられているような気もするが、それどころじゃない。首を締められ完全に気道が塞がれた僕は、生命の危機に瀕して――
「ん? この文章、ちっともわからないぞ」
俺の書いたライトノベルにツッコミが入る。
「何がわからないんだよ。もっと具体的に言ってくれないか、のぞみさんよ」
「まず、ここに出てくる真奈美は、おっぱいを新次郎の背中に必死に押し当ててるんだよな? だったらなんで、新次郎はそれに気付かないんだ?」
そんな疑問をぶつけるのは、俺の右肩にちょこんと座るミニチュア美少女、自称神様『のぞみ』だった。
それは一週間前。
雷撃犬賞の締切を間近に控え、必死に作品を仕上げていた俺の前に突然、彼女は現れた。「私は神様」という宣言と共に。
二重の黒い瞳、眉毛はキリっと細く、鼻筋も通っていて柔らかそうなほっぺ。服装は黒のブラウス、黒のミニスカートに黒のニーハイだ。いわば美少女と呼べる容姿を備えていたが、背の高さは三十センチくらいだし、変なカラスの帽子をかぶってるし、おまけに背中には黒い翼が生えていた。
「お前、ま、まさか死神!?」
おののく俺に、ミニチュア美少女は顔を真っ赤にする。
「ぶ、無礼な。畏れ多くも神様のこの私に向かって死神とは、万死に値するっ!」
彼女は背中の翼をはばたかせ、俺の背中に回って肩をポカポカと叩き始めた。執筆に疲れていたので何気に気持ちイイ。きっと俺は幻覚を見ているのだろう。
「うがががっ、や、やめろっ! ライフが、俺のライフが減っていく……」
どうせ幻覚ならと、俺はラノベのノリで対応した。
本当はもっとトントンして欲しかったが、いい加減お引き取りしてもらわないと執筆が進まない。
「おおっ! 人間にはこの攻撃が効くのか!?」
彼女も半信半疑だったらしい。
「効く、効く。死ぬぅ……バタリ」
俺は机に伏して息をひそめる。幻覚なら、しばらくすれば消えてしまうだろう。
「むう、逝ったか……。なんじゃ、この文章は……?」
彼女は、パソコンの画面に表示したままの文章を読み上げ始めた。
『新次郎よ、魔王の言うことを聞くのだ! 真奈美の命が惜しければ、人間界のすべてをここに記せ』
「ぐあっ、勝手に人の作品を読み上げるんじゃねぇ!!」
俺はがばっと顔を上げ、宙に浮く少女を捕まえ、その瞳を睨みつける。
自作を声に出して読まれるとむちゃくちゃ恥ずかしい。ミニチュアとはいえ美少女だし。
彼女は涙目になりながら俺に訴える。
「こ、この文章には、人間界のすべてが記されているのか? ならばそれを私に教えてほしい」
泣くなんてズルいよ。美少女の涙は最終兵器じゃないか。
人間界のすべてというのは、あくまでもストーリー上の話だけどな。
「私は、のぞみという名の神様だ。人間のことを、二週間以内に知らなければならないのだ。神様の学校の宿題でな」
それから、この小さな神様のぞみは、俺の作品を読みながら人間というものを勉強している。
最初は素直に俺の言うことを聞いていたが、最近は文章に口出すことが多くなって困っている。
「おっぱいを背中に押し当てられたら、普通気付くだろ? こんな風にな」
そう言いながら、のぞみは黒い翼をばたつかせながら俺の背後に回り、背中に胸を押しつけて来た。
「残念ながら、全然分からないぞ」
それもそのはず、彼女の胸は見事にぺったんこだった。
「そんなことはない! どうだ、これでどうだっ!!」
涙ぐましい努力をするのぞみ。見ていられなくなった俺は、文章を彼女にも分かる内容に書き換えてあげることにした。
「じゃあ、おんぶじゃなくて肩車にしてやるよ」
新次郎は真奈美を肩車した。
揺れるたびに真奈美の恥骨が新次郎の首筋に当たる。そんなさりげない感覚に、新次郎は真奈美の女の子らしさを感じていた。
「ちょ、ちょっと待った!」
「今度は何だよ!?」
スキンシップの様子もちゃんと描写した。だから文句を言われる筋合いは無いはずだ。そのおかげで三人称っぽくなっちゃったけど。
そう言えば、のぞみのやつ、出会った時からやけに三人称にこだわるな。神様だからしょうがないのか?
「女の子を肩車しても、首筋に恥骨は当たらないぞ」
えっ、それって……? どういうこと?
俺は頭の中にハテナマークを一杯にする。その様子を見たのぞみは、仕方が無いと翼をはためかせ始めた。
「お前にもわかるように、今から実践してやるぞ」
そしてミニスカートをひるがえひながら、俺の首筋にちょこんと座ったのだ。
むにゅっ!
首筋に伝わる妙な感覚。
のぞみはぱんつを直接、俺の首筋に当てて来た。
「ほらっ、恥骨なんて当たらないだろ?」
驚いた俺は、慌てて彼女を振り返る。
したり顔で鼻の穴を大きくするのぞみ。その態度に俺はカチンと来た。
「お前、俺を騙したな。女の子じゃないだろ?」
するとのぞみは顔を真っ赤にする。
「し、失礼なっ! 私はれっきとした女の子だぞ。神様の世界ではな」
「人間界では、そういうのを『男の娘』って言うんだよ」
「そ、そうなのか? 初めて知ったぞ」
「その証拠にお前、ぱんつの中に何か隠してるだろ?」
「ぱ、ぱんつの中って、そんなことを女の子に言わせるのか?」
モジモジしながら、のぞみは衝撃的な事実を告白した。
「そ、そりゃ、隠してるよ、三番目の足を。だって私、八咫烏だから……」
了
闘掌’16春、テーマ『春らしいもの』
「どう? 新次郎くん」
「どうって、何が?」
すると真奈美は照れながら、途切れ途切れに言葉を発する。
「あ、あのね、わ、私、昔に比べて、お、お、おっきくなったの……」
おっきくなったって?
確かに高校生になって真奈美は背が高くなった。でも幼馴染だから、僕も一緒に背が高くなってるんだけど。おんぶする感覚も、昔とあまり変わらない。
ん? 待てよ。
言われてみれば、確かに大きくなったような気がする。彼女のお尻に回した両手は、なかなか指先を合わすことができないでいた。
「ホントだ。昔に比べて大きくなったね、お尻が」
「なっ!?」
言葉を詰まらす真奈美。
彼女はいきなり僕の首に腕を回し、ギリギリと力を込め始めた。
「く、苦しい! 苦しいよ、真奈美……」
「大きいってそっちじゃないでしょ!? ほら、感じなさいよ、味わいなさいよ、想像しなさいよ、私の成長の証をっ!!」
「ぐ、ぐぐっ、ぐほっ……」
何か柔らかいものが背中に押し当てられているような気もするが、それどころじゃない。首を締められ完全に気道が塞がれた僕は、生命の危機に瀕して――
「ん? この文章、ちっともわからないぞ」
俺の書いたライトノベルにツッコミが入る。
「何がわからないんだよ。もっと具体的に言ってくれないか、のぞみさんよ」
「まず、ここに出てくる真奈美は、おっぱいを新次郎の背中に必死に押し当ててるんだよな? だったらなんで、新次郎はそれに気付かないんだ?」
そんな疑問をぶつけるのは、俺の右肩にちょこんと座るミニチュア美少女、自称神様『のぞみ』だった。
それは一週間前。
雷撃犬賞の締切を間近に控え、必死に作品を仕上げていた俺の前に突然、彼女は現れた。「私は神様」という宣言と共に。
二重の黒い瞳、眉毛はキリっと細く、鼻筋も通っていて柔らかそうなほっぺ。服装は黒のブラウス、黒のミニスカートに黒のニーハイだ。いわば美少女と呼べる容姿を備えていたが、背の高さは三十センチくらいだし、変なカラスの帽子をかぶってるし、おまけに背中には黒い翼が生えていた。
「お前、ま、まさか死神!?」
おののく俺に、ミニチュア美少女は顔を真っ赤にする。
「ぶ、無礼な。畏れ多くも神様のこの私に向かって死神とは、万死に値するっ!」
彼女は背中の翼をはばたかせ、俺の背中に回って肩をポカポカと叩き始めた。執筆に疲れていたので何気に気持ちイイ。きっと俺は幻覚を見ているのだろう。
「うがががっ、や、やめろっ! ライフが、俺のライフが減っていく……」
どうせ幻覚ならと、俺はラノベのノリで対応した。
本当はもっとトントンして欲しかったが、いい加減お引き取りしてもらわないと執筆が進まない。
「おおっ! 人間にはこの攻撃が効くのか!?」
彼女も半信半疑だったらしい。
「効く、効く。死ぬぅ……バタリ」
俺は机に伏して息をひそめる。幻覚なら、しばらくすれば消えてしまうだろう。
「むう、逝ったか……。なんじゃ、この文章は……?」
彼女は、パソコンの画面に表示したままの文章を読み上げ始めた。
『新次郎よ、魔王の言うことを聞くのだ! 真奈美の命が惜しければ、人間界のすべてをここに記せ』
「ぐあっ、勝手に人の作品を読み上げるんじゃねぇ!!」
俺はがばっと顔を上げ、宙に浮く少女を捕まえ、その瞳を睨みつける。
自作を声に出して読まれるとむちゃくちゃ恥ずかしい。ミニチュアとはいえ美少女だし。
彼女は涙目になりながら俺に訴える。
「こ、この文章には、人間界のすべてが記されているのか? ならばそれを私に教えてほしい」
泣くなんてズルいよ。美少女の涙は最終兵器じゃないか。
人間界のすべてというのは、あくまでもストーリー上の話だけどな。
「私は、のぞみという名の神様だ。人間のことを、二週間以内に知らなければならないのだ。神様の学校の宿題でな」
それから、この小さな神様のぞみは、俺の作品を読みながら人間というものを勉強している。
最初は素直に俺の言うことを聞いていたが、最近は文章に口出すことが多くなって困っている。
「おっぱいを背中に押し当てられたら、普通気付くだろ? こんな風にな」
そう言いながら、のぞみは黒い翼をばたつかせながら俺の背後に回り、背中に胸を押しつけて来た。
「残念ながら、全然分からないぞ」
それもそのはず、彼女の胸は見事にぺったんこだった。
「そんなことはない! どうだ、これでどうだっ!!」
涙ぐましい努力をするのぞみ。見ていられなくなった俺は、文章を彼女にも分かる内容に書き換えてあげることにした。
「じゃあ、おんぶじゃなくて肩車にしてやるよ」
新次郎は真奈美を肩車した。
揺れるたびに真奈美の恥骨が新次郎の首筋に当たる。そんなさりげない感覚に、新次郎は真奈美の女の子らしさを感じていた。
「ちょ、ちょっと待った!」
「今度は何だよ!?」
スキンシップの様子もちゃんと描写した。だから文句を言われる筋合いは無いはずだ。そのおかげで三人称っぽくなっちゃったけど。
そう言えば、のぞみのやつ、出会った時からやけに三人称にこだわるな。神様だからしょうがないのか?
「女の子を肩車しても、首筋に恥骨は当たらないぞ」
えっ、それって……? どういうこと?
俺は頭の中にハテナマークを一杯にする。その様子を見たのぞみは、仕方が無いと翼をはためかせ始めた。
「お前にもわかるように、今から実践してやるぞ」
そしてミニスカートをひるがえひながら、俺の首筋にちょこんと座ったのだ。
むにゅっ!
首筋に伝わる妙な感覚。
のぞみはぱんつを直接、俺の首筋に当てて来た。
「ほらっ、恥骨なんて当たらないだろ?」
驚いた俺は、慌てて彼女を振り返る。
したり顔で鼻の穴を大きくするのぞみ。その態度に俺はカチンと来た。
「お前、俺を騙したな。女の子じゃないだろ?」
するとのぞみは顔を真っ赤にする。
「し、失礼なっ! 私はれっきとした女の子だぞ。神様の世界ではな」
「人間界では、そういうのを『男の娘』って言うんだよ」
「そ、そうなのか? 初めて知ったぞ」
「その証拠にお前、ぱんつの中に何か隠してるだろ?」
「ぱ、ぱんつの中って、そんなことを女の子に言わせるのか?」
モジモジしながら、のぞみは衝撃的な事実を告白した。
「そ、そりゃ、隠してるよ、三番目の足を。だって私、八咫烏だから……」
了
闘掌’16春、テーマ『春らしいもの』
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