魚と眠る2018年05月31日 06時10分46秒

 その岬の先端には小さな墓標があった。御影石に刻まれた文字は月日を経ておぼろげに故人の名前を記す。
「それはな、ある先生の墓じゃ」
 老婆が言うには、潮がぶつかるこの岬はいろいろな魚が獲れる良い漁場だという。天領として幕府に保護されていたが、同時に潮の流れが複雑で遭難事故が絶えなかったらしい。
「先生はな、ここに住居を構え観測に人生を費やし、複雑な流れを解き明かして多くの漁師を救ったのじゃ」
 晩年は、潮の香りだけで岬周辺の魚群の種類をピタリと当てたという。
「まるで、魚を我が家に招いているようじゃったと聞いておる」
 魚先生。そう呼ばれた彼が眠るこの岬。今日もいい風が吹いている。

(追記6/29:haruさんに朗読していただきました)



500文字の心臓 第162回「魚と眠る」投稿作品

コメント

_ はるです ― 2018年06月16日 20時10分20秒

朗読のお願いに来ました。
どうぞよろしくお願いいたします。

_ はるさんへ(つとむュー) ― 2018年06月28日 07時07分30秒

反応が遅くてすいません(ワールドカップで毎日寝不足です。泣)
しばらく入院されていたとのこと、お互い体に気をつけて
暑い夏を乗り切りましょう!

朗読、もちろん構いません。
またよろしくお願いいたします!

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパム対策の質問です。このブログのタイトルは?

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://tsutomyu.asablo.jp/blog/2018/05/31/8862782/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。