永遠凝視者2017年07月03日 20時51分30秒

 サラリーマンが行き交う週明けの駅前に預言者が現れた。
 なんでも、遥か未来のことをピタリと言い当てるそうだ。
「七百兆日後の世界は……」
 なっ、七百兆日といえば、二兆年後じゃないか。
「月曜日です」
 人類が生きていればな。



500文字の心臓 第156回「永遠凝視者」投稿作品

投網観光開発2017年05月07日 18時51分41秒

 小さな漁村、茨北村に若者が押し寄せるようになったのは一週間前のこと。困惑した漁師達が派出所に押しかけた。
「最近なんで若者が村に来るのか教えてくんねえか?」
「ちょっと待って下さい……」
 赴任したばかりの新人巡査はスマホで調べ始める。
「どうやら、ポキモンVRというゲームが原因らしいですね」
 巡査が示す画面には一軒の漁具店が紹介されていた。
「それ、俺の店だっぺ」
「魚吉の網がすごい、って書いてありますよ」
「そのゲームと網が関係あんのけ?」
「えーと、魚吉の網は使い易くて大きなポキモンが獲れる? へぇ〜、ポキモンを捕まえる道具は、実物の写真を三方向から撮らないといけないらしいですね」
「写真を? 道理で若者が店に来て、網の前で何かやってるわけだ」
「魚吉の網を使ってみた動画も載ってますよ」
 そこには公園で大きなゴーグルを付けて腕を振る若者達の姿が。
「なんだい、こりゃ随分と屁っ放り腰だなぁ」
「網の打ち方、教えてあげたらいいんじゃないですか? 一時間千円くらいで」
「おお、それはいい案だっぺ」
「んだ、皆でやっぺよ」
 こうして茨北村は世界でも有名な漁村となった。投網の魅力に取り憑かれて永住を決めた外国人もいるという。



500文字の心臓 第155回「投網観光開発」投稿作品

かわき、ざわめき、まがまがし2017年03月26日 21時26分09秒

 ある夏のこと。日照り続きで塩里村の井戸が全部枯れてしまったという。
「おらんちも枯れた」
「うちもじゃ」
「どうすんだ? 川まで半里もあんぞ」
「しかたねえべ。川があるだけましじゃ」
 すると作兵衛が神妙な面持ちで切り出す。
「おら噂に聞いたんだけんどよ」
「おお、なんだ?」
 皆がざわざわと集まってきた。
「太郎んちの井戸は枯れてねえって話だ」
 太郎というのは村外れに住んでいる若者のことだ。
 その時。
「駄目じゃ、あの井戸は!」
 力強い声が広場に響く。振り向くと一人の老婆が立っていた。
「なんでじゃ? 婆婆様」
「あの井戸は呪われとる。近寄ってはならぬ」
「化け物でも出るんか?」
「そうじゃ。昨晩、こっそり太郎んちの井戸を覗いたんじゃが……」
 皆はゴクリと唾を飲んだ。
「ぶつぶつと中から不吉な音がしての、わしは気を失った」
 すると太郎がひっこりと広場に顔を出した。
「どうしたんッスか? 皆、青い顔して」
「た、太郎。お前んちの井戸には化け物が住んどるって本当か?」
「バカなこと言わんで下さい。あれは冷泉ッス」
「冷泉?」
「だから枯れないんッスよ。炭酸しゅわしゅわで美味いッス。でも気をつけて下さいね。井戸に首突っ込むとマジ死にますから」



500文字の心臓 第154回「かわき、ざわめき、まがまがし」投稿作品

2017年02月07日 07時46分55秒

 父が死ぬまでの数年間、私たち姉妹は洞窟の中で暮らしていました。悪い人に見つかると殺されるからと言い聞かされて、世間から隠れて生活していたのです。
 ざばん、ざばんと絶えず波の音が聞こえてきます。外に出ることが許されない私たちにとって、この波音と洞窟の入口からわずかに見える青空だけが、世界の変化を教えてくれる窓でした。
 とりわけ楽しみにしていたのが夜です。空の青もしくは雲しか見えない昼間とは違って、晴れた夜には星明かりが洞窟の奥まで届きます。私たちは、目に映る限られた星々を結んで勝手に名前を付けていました。
「お姉ちゃん、また『P』が見える季節になったよ」
「ホントだ。またあれが食べれるね」
 夜の長さが一番長くなると、Pの形をした星座が現れます。すると父は、私たちにお餅を持って来てくれたのです。だから私たちは、夜空にPが現れるのを楽しみにしていました。
 ある朝、父は冷たくなっていました。私たちは、ようやく洞窟から出ることができたのです。
 今でも正月の夜に北斗七星を見上げると、姉と見た星空を思い出します。



500文字の心臓 第153回「P」投稿作品

テレフォン・コール2016年12月18日 23時31分57秒

 意思の疎通が脳内チップを介した無線通信で行われるようになった時代。声帯は言葉を発することを止め、鼓膜は自然音を知覚するだけの器官となった。
(ねえ、カオリ。百年前には、電話という機械があったそうだよ)
(へぇ〜。それって何をする機械?)
(遠い場所から操作して、人の鼓膜を震わす機械……らしい)
(鼓膜を震わすって?)
(こうだよ)
 シンジはカオリの耳元で「ワン」と犬の鳴き真似をする。
(くすぐったいよ。それに、こんなところで恥ずかしいよ)
(いいじゃないか、好きなんだから)
(もう、シンジったら)
 カオリもシンジの耳元で「ニャー」と鳴いた。
(昔の人は、こんな素敵なことをなんで遠くからやってたんだろうね)
(きっとロマンチストだったのよ)
(カオリ。今度僕は、この電話機を作ってみようと思うんだ)
(じゃあ、完成したら最初に私で試してみて)
(犬語がいい? それとも猫語?)
(うーん、そうね。最近ようやく解明されたアレがいいわ)
 こうして百年ぶりのテレフォンコールはキリン語に決まった。



500文字の心臓 第152回「テレフォン・コール」投稿作品