明日の猫へ2018年09月13日 23時04分19秒

「あっ!」
 小学生の娘が旅行先で叫んだ。
「子供部屋のカーテン、開けたままだ……」
 それは南向きの窓だった。
「なにか困ることでもあるのか?」
 すると娘は泣き出す。
「ごめんなさいパパ。金魚鉢を置いたままなの」
 金魚鉢って窓際に!?
「それって去年買ったやつか?」
「うん」
 それはマズい。あれは典型的な球形だった。
「頼む、明日の天気を調べてくれ。自宅周辺の」
 俺は血相を変え妻を向く。
「ちょっと待ってて」
 もし晴れだったらヤバい。金魚鉢レンズで自宅が火事になる。
「今日は雨だけど、明日の降水確率は五十パーセントだって」
 それって、まるでシュレディンガーの猫じゃないか。
「緑ちゃん、暑くて死んじゃうよ」
「だよな、マズいよな」
 泣きじゃくる娘をなだめながら考える。
 ――旅行を中止するか否か?
 すると妻が娘に言った。
「緑ちゃんなら平気よ。甲羅干ししてたりね」
 へっ? それって……
「緑ちゃんって亀?」
「ママが夏祭りですくったの忘れたの?」
 そうだっけ? でも亀ならレンズにならないなと俺は胸をなでおろす。
 しかし娘はお冠。
「パパもママも大っ嫌い。私、絶対帰る!」
 明日の猫はやはり予測不能だった。



500文字の心臓 第164回「明日の猫へ」投稿作品

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