すみれ座を探して2007年07月02日 00時11分07秒

「ねえ、すみれ座って知ってる?」
 幼馴染の菜々が、真剣な面持ちで聞いてきた。
「なんだそれ?場末の映画館?」
「はぁ?星見てんだから星座に決まってんでしょ!」
「ゴメンゴメン、僕が悪かったよ。ちゃんと聞くからさぁ…」
 
 いつもの癖でつい菜々をからかってしまう。七夕祭りの後、二人でこの公園にやってきた。見慣れた顔とはいえ、浴衣姿はちょっと色っぽい。

「この星々のどこかに、お父さんの好きだったすみれ座があるの」
 菜々は夜空を見上げながら、ゆっくりと話し始めた。中学生の頃、星座の絵葉書をお父さんにもらったこと。そこに書かれていたのは、七夕祭り、夏の星座、そしてすみれ座が一番というメッセージ。
「その直後だったんだ、お父さん死んじゃったの…」
 僕は慌てて話題を戻す。
「それでその絵葉書は?」
「無くなっちゃった…。いつもそばにと、本の栞にしてたのがいけなかったのよね。あーあ」
「じゃあさ、一緒にすみれ座を探してやるよ」
 たまらず僕がそう言うと、菜々の瞳が輝いた。
「ホント!?」
「捜索報告会は、そうだな…来年の七夕祭り。それでいい?」
「うん。私、期待してるから…ね」

 それから僕は、図書館に通って星座の本を調べた。でもすみれ座なんて、どの本にも載っていない。結局、報告会は開かれぬまま僕達は高校を卒業し、菜々は北の方の短大に進学してしまった。

 連絡も無く一年が過ぎたある日、部屋の片隅から古い本が出てきた。昔菜々から借りていたやつだ。そういえばあいつとの約束、ついに果たせなかったな。そんなことを考えていると、本から何かが落ちた。えっ、星座の絵葉書?そう、それは例の絵葉書だった。裏に書かれていたのは、”菜々、smile が一番だよ”というお父さんからのメッセージ。
「すみれ、か…。バカだな、あいつも」
 菜々の輝く瞳、それがすみれ座だったのだ。
 カレンダーを見る。週末は七夕だ。報告会の開催を伝えようと、僕は携帯を手に取り一つ深呼吸した。


こころのダンス文章塾 第17回「微笑」投稿作品★佳作

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