投網観光開発2017年05月07日 18時51分41秒

 小さな漁村、茨北村に若者が押し寄せるようになったのは一週間前のこと。困惑した漁師達が派出所に押しかけた。
「最近なんで若者が村に来るのか教えてくんねえか?」
「ちょっと待って下さい……」
 赴任したばかりの新人巡査はスマホで調べ始める。
「どうやら、ポキモンVRというゲームが原因らしいですね」
 巡査が示す画面には一軒の漁具店が紹介されていた。
「それ、俺の店だっぺ」
「魚吉の網がすごい、って書いてありますよ」
「そのゲームと網が関係あんのけ?」
「えーと、魚吉の網は使い易くて大きなポキモンが獲れる? へぇ〜、ポキモンを捕まえる道具は、実物の写真を三方向から撮らないといけないらしいですね」
「写真を? 道理で若者が店に来て、網の前で何かやってるわけだ」
「魚吉の網を使ってみた動画も載ってますよ」
 そこには公園で大きなゴーグルを付けて腕を振る若者達の姿が。
「なんだい、こりゃ随分と屁っ放り腰だなぁ」
「網の打ち方、教えてあげたらいいんじゃないですか? 一時間千円くらいで」
「おお、それはいい案だっぺ」
「んだ、皆でやっぺよ」
 こうして茨北村は世界でも有名な漁村となった。投網の魅力に取り憑かれて永住を決めた外国人もいるという。



500文字の心臓 第155回「投網観光開発」投稿作品

かわき、ざわめき、まがまがし2017年03月26日 21時26分09秒

 ある夏のこと。日照り続きで塩里村の井戸が全部枯れてしまったという。
「おらんちも枯れた」
「うちもじゃ」
「どうすんだ? 川まで半里もあんぞ」
「しかたねえべ。川があるだけましじゃ」
 すると作兵衛が神妙な面持ちで切り出す。
「おら噂に聞いたんだけんどよ」
「おお、なんだ?」
 皆がざわざわと集まってきた。
「太郎んちの井戸は枯れてねえって話だ」
 太郎というのは村外れに住んでいる若者のことだ。
 その時。
「駄目じゃ、あの井戸は!」
 力強い声が広場に響く。振り向くと一人の老婆が立っていた。
「なんでじゃ? 婆婆様」
「あの井戸は呪われとる。近寄ってはならぬ」
「化け物でも出るんか?」
「そうじゃ。昨晩、こっそり太郎んちの井戸を覗いたんじゃが……」
 皆はゴクリと唾を飲んだ。
「ぶつぶつと中から不吉な音がしての、わしは気を失った」
 すると太郎がひっこりと広場に顔を出した。
「どうしたんッスか? 皆、青い顔して」
「た、太郎。お前んちの井戸には化け物が住んどるって本当か?」
「バカなこと言わんで下さい。あれは冷泉ッス」
「冷泉?」
「だから枯れないんッスよ。炭酸しゅわしゅわで美味いッス。でも気をつけて下さいね。井戸に首突っ込むとマジ死にますから」



500文字の心臓 第154回「かわき、ざわめき、まがまがし」投稿作品

2017年02月07日 07時46分55秒

 父が死ぬまでの数年間、私たち姉妹は洞窟の中で暮らしていました。悪い人に見つかると殺されるからと言い聞かされて、世間から隠れて生活していたのです。
 ざばん、ざばんと絶えず波の音が聞こえてきます。外に出ることが許されない私たちにとって、この波音と洞窟の入口からわずかに見える青空だけが、世界の変化を教えてくれる窓でした。
 とりわけ楽しみにしていたのが夜です。空の青もしくは雲しか見えない昼間とは違って、晴れた夜には星明かりが洞窟の奥まで届きます。私たちは、目に映る限られた星々を結んで勝手に名前を付けていました。
「お姉ちゃん、また『P』が見える季節になったよ」
「ホントだ。またあれが食べれるね」
 夜の長さが一番長くなると、Pの形をした星座が現れます。すると父は、私たちにお餅を持って来てくれたのです。だから私たちは、夜空にPが現れるのを楽しみにしていました。
 ある朝、父は冷たくなっていました。私たちは、ようやく洞窟から出ることができたのです。
 今でも正月の夜に北斗七星を見上げると、姉と見た星空を思い出します。



500文字の心臓 第153回「P」投稿作品

プチ変換2017年01月18日 23時09分24秒

「先生は、チンチンになりました」
 教室に響く可愛らしい声に、教壇に立つ俺はあ然とした。
 ええっ?
 何を言ってるんだ、この子は!? 授業中に。
 もしかしたら聞き間違いかもしれない。俺は早速確かめる。
「引川千絵さん。教科書のさっきのところ、もう一回読んでくれないかな?」
「はい、わかりました」
 小学六年生とは思えないハキハキとした返事。俺を向く真摯な眼差し。
 こんな真面目な子がふざけて教科書を読んでいるとは、とても思えない。
「先生は、チンチンになりました」
 やっぱり……。
 聞き間違いじゃなかった。
 そこで俺はあることを思い出す。
 そっか。
 あれか……。
 ――小さな異能者。
 今日から俺は、そんな小学生たちを教えることになったのだ。

 ◇

 発端は、先月掛かってきた一本の電話だった。
『ねえ、太田クン? 来月から私の代わりに、ちょっと面白いクラスを教えてみない?』
 真夜中に突然。
 眠い目を擦りながら、スマホからの妙に明るい声に耳を傾ける。
 まあ、こんな時間にこんな電話を掛けてくる人物は決まっている。大学時代にお世話になった安藤妙子先輩だ。
「来月からって、そんな急には無理ですよ」
『あれれ? 太田クン、今月で暇になるんじゃないの? 臨採やってるクラスって、前任者が産休明けで帰って来るって聞いたけど』
 臨採というのは、教員の臨時採用のこと。教員免許は持っているが採用試験には通っていない人が就くのがほとんどで、産休などで急に欠員となった穴を埋めるケースが多い。あくまでも臨時の先生なので、産休明けで先生が戻ってきたらお役御免になってしまう。
「どうしてそんなこと知ってるんですか?」
『私を誰だと思ってるの? この業界は狭いのよ。それで? 返事は?』
 矢継ぎ早に俺の回答を求める先輩。いつもながらに勝手なもんだ。どんな子供たちを教えるのかがわからなければ、答えようがないじゃないか。
「ちょっと面白いクラス、ってのが気になりますね。先輩の言う『面白い』が、俺にとって面白かった試しは一回も無いんですけど」
 不躾には嫌味で返す。大学の頃、俺は先輩にいじられてばかりいた。
『あら、本当に面白いクラスよ。太田クンも気に入ると思うんだけどな。ところで私が今、森葉女学園に勤めてるのは知ってるよね?』
 ――私立森葉女学園。
 小・中・高一貫の、お嬢様が通う私立学園だ。どこかのアイドルグループの名前ではない。
「ええ、知ってますよ」
『その初等科の六年三組が、今、私が担当しているクラスなんだけど、少し変わってるのよ』
 森葉女学園には、かなり世間ズレした女の子が通っていると聞いた事がある。その中でも変わっているという言うのだから、相当なものだろう。
 これは注意せねば、と一言一句聞き逃さぬよう先輩の説明に集中する。
「それで、どんな風に変わってるんですか?」
『おっ、乗り気になってきたね』
「そんなわけじゃないですよ。もしかしたら、ってのはありますけどね」
 森葉女学園は私立学校だ。ということは、県の採用試験に合格していない俺でも正規採用してもらえる可能性がある。先輩のクラスがどれだけ変わってるのか分からないが、我慢できる範囲であれば渡りに船かもしれない。
 しかし、続く先輩の言葉に俺は耳を疑った。

『六年三組の子はね、みんな小さな異能者なの』

 異能者? この現実世界に?
 アニメかなにかと勘違いしているんじゃないだろうか。
「い、異能者……ですか?」
『まあ、異能者ってのはちょっと言い過ぎだけど、みんなが小さな特殊能力を持ってるの。例えば、プチ変換とかミニ変換とかね』
 プチ変換? ミニ変換?
 なんだそれ?
 なんでも小さく変換しちゃう能力とか?
『電話じゃ上手く説明できないんだけど、決して超能力じゃないから安心して。実際に人間ができる範囲の習慣というか癖というか、そういうものに近いから』
 こんな説明じゃ、なんだかよくわからない。
『本当にたわいもない微笑ましい能力なのよ。他にも、ナラ変換とかシガ変換って子もいて面白いわよ』
 奈良変換? 滋賀変換?
 おいおい、変換が関西まで及ぶのか? それは大変だぞ? 京都や大阪じゃないところが、小さいというかなんというか……。
「それで先輩のクラスの子、能力の属性はどの子もみんな『変換』なんですか?」
『おっ、属性なんて言葉使っちゃって、興味が湧いてきた?』
「そういうわけじゃないですけど、ちょっと面白そうだなって」
 すると先輩は真面目な声で切り出した。
『これは太田クンにとっても悪い話じゃないと思うの。来月の一月から三ヶ月間、ちゃんとクラスを教えることができたら、四月から正規採用してもいいって理事長も言ってるわ。大丈夫、私だって教えることができたクラスだもん。太田クンなら間違いないわ』
 おおっ、正規採用キター!
 それに初等科の六年生ってことは、どんな能力者であれ三ヶ月間我慢すれば中等科へ上がってしまうってことだ。その後は、正規採用と普通クラスの担任が俺を待っている。
「わかりました。前向きに考えておきます。それで先輩は何で辞めちゃうんですか?」
 俺は核心を突く。すると先輩は急にデレデレ声になった。
『それがね、聞いてよ、できちゃったのよ』
 えっ、できちゃった?
「できちゃったって、巷でよく聞く『できちゃった婚』ってやつですか?」
『そうなのよぉ。飲み屋でなんだか見たことのあるようなイケメンにナンパされて、お持ち帰りされちゃったの。妊娠したこと後で彼に伝えたら、結婚しようってちゃんと言ってくれたのよぉ』
 ええっ、そんなことってあるか!?
 まあ、やり逃げされなかったのは良かったと思うけど。
「その人、ちゃんと仕事してます? 騙されてるんじゃないでしょうね?」
 やっぱり結婚やめた、なんてことになったら俺の就職はパーだ。ここはしっかりと確認せねばならぬ。
『それがね、彼ったらプロ野球の選手だったの。広島の方に本拠地があるチームのレギュラー。道理で見たことのある顔だったわけよ』
 う、嘘だろ?
 ナンパしてきたイケメンがプロ野球選手で、レギュラーってことは今シーズンの優勝メンバー!?
 これが本当だとしたら奇跡としか思えない。
「まさに神ってますね」
『でしょでしょ!? 結婚したら家庭に入ってくれって言われて、来月、広島に引っ越すことになっちゃったの』
 マジか。広島に行くなら森葉女学園は辞めざるを得ない。
『太田クンが六年三組を引き継いでくれたら、こっちも安心して広島へ行けるんだけどなぁ……』
 そんな猫なで声で言われても……。
 本当に勝手なもんだ。
 先輩ののろけ声を聞いていると、無性に背中がむず痒くなる。置いてきぼりになるクラスの子供たちがなんだか可哀想になってきた。
「わかりました。やりますよ。その代わり正規採用の件は理事長に念押ししておいて下さいね」
『サンキュ! さすがは私の後輩。彼の試合のチケット贈るから見に来てね。あっ、あと離任式の祝辞の文面もよろしく。素敵な内容を期待してるから』
 こうして俺は、先輩の代わりに六年三組を受け持つことになった。

 ◇

 六年三組での最初の授業は国語だった。
「先生は、チンチンになりました」
 そしていきなり、この引川千絵の発言。
 俺は教科書を確かめる。
 彼女に音読を頼んだ箇所には、こう書かれていた。

『先生は、プンプンになりました』

 何度目をこすっても、『チンチン』には見えない。
 初めて教えるクラスだ。引川千絵がどんな子なのか、そしてどんな能力を持っているのかわからない。
 が、とりあえず間違いを指摘しておこうと俺は口を開く。
「引川さん、ここは『プン……」
 すると突然、俺の言葉を遮るように一番前の席に座っていた子が手を上げた。
「先生!」
「えっと……」
 この子は誰だろう?
 俺は慌てて教卓に貼ってある座席表を確かめる。
 猫山路美。学級委員長だった。
「なんでしょう? 猫山さん」
 すると猫山路美は立ち上がり、うつむいたままの引川千絵を横目で見ながら俺に訴える。
「千絵ちゃんはプチ変換なんです。仕方がないんです。スルーしなきゃダメなんです」
「プチ変換……?」
 これが先輩の言っていたプチ変換か。
 それは、どんな能力?
 教科書の『プンプン』を『チンチン』と読んでしまうことに関係があるってこと?
 この際だから、学級委員の彼女に聞いてみるのも手かもしれない。
「俺は今日が初めてだから、よく分からないんだ。ちょっと教えてくれないかな」
 すると猫山路美は教室を見渡し、クラスに異論が無いことを確認してから俺を向いた。
「プチ変換っていうのは、文書の『プ』を『チ』って読んじゃう能力のことなんです。だから『プチ変換』って言うんです。千絵ちゃんは、『プンプン』と読んでるつもりでも『チンチン』って言っちゃうんです」
 ま、まさか、そんなことが……。
 俺は思わず言葉を失った。
「それに、千絵ちゃんの苗字は『ヒクカワ』ではありません。『プルカワ』なんです」
 ――引川千絵(ぷるかわ ちえ)。プチ変換。
 こうして俺の、波乱万丈の一日が始まった。

 ◇

 それにしても、なんて不思議な変換能力なんだ。
 プチ変換とは、『プ』を『チ』と読んでしまう能力だった。
 能力の概要を理解した俺は、二時間目からは彼女らを観察する余裕が生まれていた。例えば――

 二時間目、社会。
 ミニ変換、三浦二衣奈(みうら にいな)の場合。
「少子化対策におけるニンシン党の政策は……」
 おいおい、党を挙げて頑張ってるみたいに聞こえるぞ。

 三時間目、歴史。
 ナラ変換、七草来夏(ななくさ らいか)の場合。
「大阪冬の陣で、幸村が造ったサラダ丸は……」
 なんだか可愛いな……。

 四時間目、理科。
 シガ変換、進藤伽藍(しんどう がらん)の場合。
「琵琶湖に雪がガンガンと降ります」
 うわぁ、そのまんまやん!

 確かにこれは、先輩が言うように習慣とか癖のようなイメージに近い。が、初めて目にした語句でも変換されてしまうらしいので、習慣や癖と断定し難く、そういう意味では一種の特殊能力なのだろう。
 それにしても魔法のような力じゃなくて良かった。
 実を言うと、プチ変換っていろんなものを小さくしちゃうんじゃないかとビクビクしていたんだ。
 ほっとしたような、でもやっぱりちゃんと気をつけなきゃいけないような、複雑な気持ちで俺は最初の一日を終えた。

 ◇

『どうだった? 六年三組』
 帰宅すると、早速先輩から電話がかかってきた。
「可愛かったですね、子供たち。スルー力も高いし」
『でしょ? みんなそれぞれの変換能力を持ってるからね。それを分かってるから、変なことを口にしても誰も笑ったりしないしね』
 確かにこれはすごかった。
 もしクラスの中に男の子がいたら、『チンチン』と変換したとたん教室は爆笑に包まれてしまうだろう。そうなったら、もう学校に行きたくなくなるのは間違いない。特殊能力ゆえに私立のお嬢様学校に通わせる親の気持ちがよく分かる。
『それで明日の離任式の祝辞、ちゃんと考えてくれたよね』
 明日は、一月一日付けで学校を離れる先生方のために離任式が行われる。もちろん先輩も見送られる予定だ。
「ええ、ちゃんと書きましたよ。なるべくカタカナを入れないようにして」
『それが賢明だわ。それで、どの子に読んでもらうつもり?』
「やっぱり、学級委員長の猫山路美にしようと思います」
 今日は彼女に助けられた。それに、彼女がクラスの信頼を得ていることも確認することができた。祝辞を読むのは、委員長の猫山路美で決まりだろう。
『そうね。あの子はクラスで一番賢いから適任だわ』
「ですよね。もし引川千絵だったら、『プロ野球』を『チロ野球』って読んじゃいますからね」
 すると先輩は電話の向こうで苦笑する。
『千絵ちゃんならそうね。『チロ野球』って、なんだか犬の野球みたい。ていうか、祝辞に彼のこと書いたの?』
「プロ野球選手くらいはいいでしょ? 先輩だってこの間、記者会見でデレデレだったじゃないですか。あとは明日の祝辞を楽しみにしておいて下さいね」
『何? 内容は秘密? 皆の前であんまり変なことバラさないでよね。彼も後で離任式のビデオ見るって言ってんだから』
「任せて下さい。かの流行語で会場をわかせてみせますよ」
 こうして俺は、満を持して離任式に挑んだのであった。

 ◇

 一月で異動や退職される先生方は三人だった。
 その中の一人、安藤妙子先輩はスーツの胸に花を飾り、体育館のステージに立って子供たちを眺めている。
 児童代表が三人、順番にステージに上がって祝辞を読み上げていく。六年三組の猫山路美の番は最後だった。

「安藤先生、長い間、大変お世話になりました」

 猫山路美の凛とした声が体育館に響く。
 緊張はしていないようだ。俺はほっと一息をつく。
 それにしても、原稿を読んでいるというのにこんなにも声が通るとは素晴らしい。
 彼女ならやってくれるだろう。立派な祝辞が演出できれば、俺の株も上がり、正規採用にぐっと近づくはずだ。
 しかし、続く彼女の言葉に俺は耳を疑った。

「先生のご結婚を一言で表すと、まさに『呻ってる』です」

 ええっ!?
 呻ってる?
 そんなこと、原稿に書いたっけ?

「呻ってる出会いで、先生はプロ野球選手との幸せを手にされ……」

 待てよ、そこは、かの流行語『神ってる』だったはずだ。
 まさか。
 これって……。
 念のため、俺は目の前の引川千絵に小声で確かめる。
「引川さん、ちょっと聞きたいんだけど、猫山さんは何変換だっけ?」
 ――猫山路美(ねこやま ろみ)。
 名前から推測される変換名を、引川千絵は口にした。
「路美ちゃんはネロ変換だよ」
 やはり、そうだよな……。
 このことは織り込み済みで、原稿もネロ変換されない語句を選んで吟味を重ねたんだ。カタカナだって『プロ野球』だけに留めている。
「路美ちゃんは頭いいからねぇ。ほとんどの漢字をカタカナのようにスラスラ読んじゃうんだよ」
 漢字をカタカナのように、だって!?
 ま、まさか、漢字がネロ変換されちゃってるとか!?
 するとステージ上の猫山路美の口から、信じられないような言葉が飛び出した。

「六年三組一同、先生のお幸せを、おポンドりして」

 おポンドりって何だよ。
 確かそこは『お祈り』だったはずだぞ。
 体育館もざわざわとざわつき始めた。さすがに『おポンドり』には、多くの人が違和感を覚えたようだ。
 それにしても、さっきの『神ってる』といい、一体どんな変換が起きているんだ!?
 ――『神ってる』と『お祈り』。
 変換されてしまった言葉を頭の中で並べて、俺は真相に気が付いた。
 そうか、そういうことだったのか!
 これはヤバい! 最後の言葉はもっとヤバい!!
 しかし、時はすでに遅し。
 猫山路美は声量を上げ、笑顔で締め括りの言葉を口にした。

「今日という日を、心からお呪いいたします!」





 おわり



ライトノベル作法研究所 2016-2017冬企画
テーマ:『小さな異能』

テレフォン・コール2016年12月18日 23時31分57秒

 意思の疎通が脳内チップを介した無線通信で行われるようになった時代。声帯は言葉を発することを止め、鼓膜は自然音を知覚するだけの器官となった。
(ねえ、カオリ。百年前には、電話という機械があったそうだよ)
(へぇ〜。それって何をする機械?)
(遠い場所から操作して、人の鼓膜を震わす機械……らしい)
(鼓膜を震わすって?)
(こうだよ)
 シンジはカオリの耳元で「ワン」と犬の鳴き真似をする。
(くすぐったいよ。それに、こんなところで恥ずかしいよ)
(いいじゃないか、好きなんだから)
(もう、シンジったら)
 カオリもシンジの耳元で「ニャー」と鳴いた。
(昔の人は、こんな素敵なことをなんで遠くからやってたんだろうね)
(きっとロマンチストだったのよ)
(カオリ。今度僕は、この電話機を作ってみようと思うんだ)
(じゃあ、完成したら最初に私で試してみて)
(犬語がいい? それとも猫語?)
(うーん、そうね。最近ようやく解明されたアレがいいわ)
 こうして百年ぶりのテレフォンコールはキリン語に決まった。



500文字の心臓 第152回「テレフォン・コール」投稿作品