紅白衣装に魅せられて2010年11月07日 09時28分10秒

「我が国で用いる『鬼子』とはどんな意味だか知ってるよな」
 私は秘書のヤンに尋ねる。最近、N国との国交がギクシャクして困っている。
「はい、相手国を侮辱する言葉です」
 そうだ、鬼子とは相手国を蔑称する言葉。最近、我が国民がN国のことを『N国鬼子』と叫びながらデモを繰り返している。
「しかし、それを見たN国がどんな反応を示したか知ってるか?」
「さあ。抗議の声を挙げたとか?」
 ヤンは首をかしげる。
「それがだな、『N国鬼子』という萌キャラを募集してるんだよ」
 普通、侮辱されたら抗議をするのが普通だ。それをN国では、鬼の女の子をモチーフとした萌えキャラ作りに精を出しているという。
「異民族の考えることは理解できんですな」
「N国から流出してきた映像を見たのだが、これがなかなか可愛いのだよ。ちょっとツンデレっぽくてな」
「首相! ダメです。これはN国の策略です」
 策略と言われても可愛いものは仕方が無い。実は私は、N国で言う『萌え』に弱いのだ。
「そうだ、ヤン。N国の策略と言えば、N国特有の紅白の特殊衣装が我が国民を虜にしているという噂を聞いたが、それはどんな衣装なんだ?」
「はい。かなり特殊な衣装です。少し破廉恥なので、首相は見ない方が良かろうかと」
「しかし国民が虜にされているという衣装は気になるぞ。その映像もN国から流出していないのか?」
「申し訳ありません。実は私もすっかり魅せられてしまい、その画像を携帯に入れて密かに見ているのです」
 謝罪しながらヤンは携帯を開いて私にその画像を示す。
 それは、白い体操着に赤いブルマーをはいた女子高生の画像だった。


一時間で書く即興三語小説
▲お題:「流出」「異民族」「紅白」

ゴム紐が語る青春の汗2010年10月10日 23時20分17秒

 秋の空は高く、サッカーグラウンドがなんだか小さく見える。そんな放課後の校庭にたたずむ羽坂美咲は、部室から出てくる部員を心待ちにしていた。
「おい、美咲。俺のパンツに何をしたっ!」
 真っ先に出てきたのは真也。やはりコイツが一番か。
 私のことを呼び捨てするのはコイツだけだ。幼馴染だから当然同学年。
「美咲先輩、ありがとうございます。これ、イイです」
 続いて出てきたのは亮くん。可愛い一年生だ。
「マネージャー、これはどういう風の吹き回しだ。サッカーパンツにゴム紐を付けるなんて」
 背の高いこの人は高志先輩。密かに憧れてる。今日もナイスですよ。
 先輩にはちゃんと説明しなくちゃヤバイ。私の株が下がってしまう。
「高志先輩、このゴム紐って私のおじいちゃんが開発した新兵器なんです。早速、今日の練習で威力を発揮すると思います。楽しみにしていて下さい」
「なんだ、またお前んとこのクレイジーじいちゃんの発明か。俺がそれで何度哀れな目にあったか分かってんのか?」
 すかさず真也が憎まれ口を叩く。
「それにサッカーパンツにゴム紐なんて、小学生みたいじゃねえかよ」
 真也は不満たらたらだ。
「あら、見た目にはわかんないわよ」
「そうですよ、真也先輩。フィットしていて僕は気に入りましたけど」
 いい子だ、よしよし。亮くんはいつも私の味方で助かるよ。
「練習終了後に、ちゃんと結果をお見せしますので」
 まだ納得していない部員もいたが、私がそう言うと皆グラウンドに駆け出していった。

 それは先週の日曜日のことだった。いつものように日曜の部活に行こうとした私は、おじいちゃんに呼び止められた。
「おい、美咲。今度これを試してくれんかね」
 おじいちゃんが手にしていたのは、銀色に光るゴム紐だった。
「なに、これ?」
 ゴム紐は色こそ銀色だったが、触ってみると弾力といい伸び具合といい普通のゴム紐だ。
「これをな、お前がマネージャーをしているサッカー部員のパンツに付けてほしいんじゃよ。ほら、洗濯とかしとるんじゃろ、お前は」
 そうだよ、うちの部員はマネージャーの私がいるからって、洗濯まで頼んでくんだよ。洗濯ぐらい自宅でやれっつーの。でも、やつらが練習をしている間に洗濯してるとちょうどいいんだけど。
「それで、じいちゃん。これを付けると何かいい事あるわけ?」
 するとじいちゃんの目がキラリと光った。
 マズイ。
 と思う間もなく、いつものじいちゃんの説明が炸裂する。
「このゴム紐には特殊な金属が織り込まれておってな、それに電流が流れると特殊な電波を発するようになってるんじゃよ。特にこの金属をループ状にした時に電波を発生しやすくなっておってな、微弱な電気の流れにも反応して……」
「わかった、わかった、じいちゃん。ちゃんとゴム紐を付けるから。じゃあ、部活に行って来るよ」
「おい、待て。説明はちゃんと最後まで聞け、美咲ィ!」
「はいはい、後でね」
 危ない危ない。じいちゃんの説明は長くて困る。
 私は、ゴム紐と一緒に渡されたノートパソコンとアンテナを抱えて自宅を出発した。

 部員が全員グラウンドに出ると、美咲はパソコンをセットするために部室に入る。
「うっ、男くせぇ」
 さっきまで部員が着替えていたから仕方がないが、この臭いには慣れることは一生できそうにない。
 美咲は窓を開け、窓の近くのテーブルにパソコンを置いてUSB端子にアンテナを接続する。パソコンのスイッチを入れて、じいちゃんのソフトを起動すると――おっ、出た出た。ちゃんとデータが取れてるじゃん。
 そのソフトの画面では、部員の数だけグラフが表示され、活動量が記録され続けている。それはまるで心電図かなにかのチャートを見ているよう。その部員が動いていない時はグラフは横線のままで、動き始めると地震計のように値が上下する。
「これは使えそうね」
 早速、監督に見せてみよう。活動量の詳細なデータが取れれば、誰がちゃんと走っているのか、誰がさぼっているのかが一目瞭然だ。運動量のある選手を効率良く使えれば、試合ももっと勝てるかもしれない。
 それにしても、ゴム紐一本でこんなすごいデータが得られるなんて、じいちゃんもなかなかやるわね。まあ、じいちゃんの発明が役に立ったのは始めてかもしれないけど。今日くらいはちゃんとお礼を言っておくか。

 家に帰ると、じいちゃんが玄関で待っていた。
「おう、美咲。どうじゃ、役に立ったか?」
「すごいよ、じいちゃん。監督も絶賛だったよ。ぜひ今度の試合で使いたいって」
「ふぉふぉふぉふぉ。それは嬉しいのう」
 じいちゃんは満面の笑顔だ。それもそのはず、得意の発明がやっと孫の役に立ったのだから。
 でも今回は冗談抜きですごい発明だった。美咲は素直にじいちゃんに頭を下げる。
「ごめんね。私ずっと、じいちゃんのことをバカにしてた」
「いいんじゃよ。美咲が喜んでくれるだけで」
「朝もごめん。説明を全部聞いてあげられなくて。罪滅ぼしとして、原理のところだけ簡単に教えてほしいんだけど……」
 朝のじいちゃんの説明では、ゴム紐が電波を発していて、それをアンテナとパソコンでキャッチしていることは分かった。でも、それがなぜ活動量に応じているのかが分からない。
「はははは。それはの、振り子じゃよ」
「振り子?」
「ゴム紐に織り込んであるこの特殊な金属はの、わずかな電流の動きを感じで電波を発するんじゃ。血流が作る電流でも反応する優れものじゃよ。それが振り子のように揺れていれば、揺れに応じて電波を発する。そしてその揺れはその人の活動量と比例する、というわけなんじゃ」
 簡単に、って頼んでいるのに、微妙に難しかったぞ。じいちゃんを褒めるんじゃなかった。
 なになに、ゴム紐の近くで振り子が揺れれば電波が発生するって?
 えっ、えっ、えっ、それって何? パンツのゴム紐の近くで振り子のように揺れてるものって……!?
「じ、じいちゃん……」
 何てものを発明するのよ、じいちゃん。原理なんて聞かなきゃよかった。これじゃあ、恥ずかしくて皆の顔が見れない……

 それでもやはり月曜日は来てしまうのであった。
 もうこの機械を使うのはやめましょうと提案する美咲をよそに、監督はこの機械で部員の活動量のデータを取ることを望んだ。仕方がなく、今日も美咲は部室でパソコンの画面を眺めている。
 このグラフのギザギザの一つ一つが、あ、あの振り子の揺れを表しているなんて……
「マネージャー、どうだ? 皆はちゃんと走っていたか?」
 突然、高志先輩に声をかけられて心臓が止まるかと思った。あの振り子のことを考えていたなんて口が裂けても言えない。
「は、はい」
 高志先輩のあれは、ちゃんと揺れていましよ。って、キャー!!
「美咲先輩。今日は僕、がんばりましたよ」
 続いて亮くんが部室に入ってい来る。亮くんのは、チョロチョロって感じかな。って、キャー!!
「美咲、どうだ、俺の運動量は?」
 真也? あんたのはまあままね。もっと真面目にやりなさい。
 それにしても、子供の頃に見ていたあれが立派になったとは。って、私何を想像してるのかしら。
 なんだかグラウンドが、すっかりピンクに見えるようになってしまった美咲だった。



即興三語小説 第76回投稿作品
▲お題:「パンツのゴム紐」「振り子」「哀れ」
▲縛り:「恋愛物」「キャラクタ-として人間を出さない(任意)」「主人公の服装について描写する」
▲任意お題:「ポテトサラダ」「ドラゴン」「すれ違い」「新種のマウス」「千年無敗」「野球」

一人だけ2010年10月03日 00時23分24秒

エッチな表現があります。
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「アルコール、入りました!」
 イメクラ”一人だけ”の控え室にコールの掛け声が響く。
 アルコール――これは、お酒のことではない。このお店の隠語で、ナイコールと対になって使われるサービスの一つだ。
 サービス料は、ナイコールが三十分三千円なのに対してアルコールは三十分三万円。そう、桁が一つ違うこのお店の特別サービス。
「カオリちゃん、出番よ」
 カオリは覚悟を決めたように静かに立ち上がり、ゴクリと唾を飲む。
 このお店に来て三日目。いつかはこの日がやってくるとは思っていたが意外と早かった。一週間くらいは大丈夫だと思っていたのに。
「指定はスク水です」
 しかも、今回のコスチュームはスクール水着だという。
 カオリは服を脱ぎ、下着を外す。そしてスクール水着に着替えた。ボリュームのあるカオリにとって少し窮屈だ。
「これが大人になる瞬間なのね……」
 鏡に自分の姿を映しながら、この場所から逃げ出したい自分をじっと見つめる。
 実はカオリは今回が初体験。失恋した直後にこのお店で働くことを決め、その時に覚悟したつもりだったのに、いざその時になると怖気づいてしまう。
「ダメだ。こんなんじゃ。あの人と上手くいってれば、今頃はすでに体験済みだったはずなのよ」
 カオリは自分の顔を両手で軽く叩き、よしと一つ気合を入れた。

「お待たせしました。カオリでーす」
 イケメンだったらいいのにという願いもむなしく、お客は眼鏡をかけた草食系だった。
「カ、カ、カオリちゃんだね」
「そうでーす。よろしくお願いいたしまーす」 
 カオリは必死に明るく演じた。お客をがっかりさせたら、二度とこの店で働けなくなる。
「お飲み物は何にいたしますか?」
「ビ、ビ、ビールをお願いします」
 どうやらこの客はどもる癖があるようだ。ビールで舌を軽くしようというのだろうか。
「スク水はお好きなんですか?」
 カオリが質問すると、お客の目つきが変わった。
 しまった。どうやら彼のオタク心を激しく揺さぶってしまったみたいだ。
「これは僕の好きなタイプの水着だね。見たところ、ポリエステル80%と予想する。まあ僕くらいになれば、触った瞬間に素材が分かるけどね。最近、ポリエステル100%の水着が多くて嫌気がさしていたんだ」
 これはヤバイお客に当たってしまった……
 カオリが激しく後悔していると、ウエイターがビールを二つ運んできた。ちょうどいい。これは飲まなきゃやってられない。
 しかし、それは異常プレイの始まりだった。
「きゃっ!」
 冷たい感触に驚いたカオリが自分の体を見ると、ビールがかけられていた。
「ご、ご、ごめんね。カオリちゃん。で、で、でも許してね。ぼ、ぼ、僕、水着に染みこんだビールを吸うのが好きなんだ」
 そう言っているうちに、ビールは水着に染みこんでいく。するとお客が唇をカオリの体に近づける。
「あっ、ダメ。いきなりそんなところを吸わないで……」
 カオリが接客する小部屋では、ちゅうちゅうという音が響き渡り始めた。

「カオリのやつ、頑張っているかな」
「僕、このお店で働いて半年になりますが初めてですよ、アルコール」
「でも、たまに来るんだよ、男を求める男性客が」
「だからカオリさんが居るんですね。このお店唯一のニューハーフですもんね」
「そうだよ。展示されている女の子の中に一人だけニューハーフが混ざっている、というのがウチのウリだからな」
「間違って、カオリさんを選んじゃった人は可哀そうですね」
「はははは。でも、好きでニューハーフを選ぶお客もいるんだよ。アレがあるからアルコール。しかも女性用のスク水を着て接客とあっては、その手のお客は大喜びだろう。くっきりと形が浮き上がるからな」
「やめてくださいよ、想像しちゃうじゃないですか」
「お前もやってみるか?」
「バカなこと言わないで下さいよ~」
 控え室では支配人とウエイターがカオリの無事を祈っていた。



一時間で書く即興三語小説
▲お題:「アルコール」「ビールは水」「大人になる瞬間」

ロックさるかに合戦2010年09月29日 22時44分43秒

「おーいサトル、あれはできたかよ?」
 軽音部室では、バンドのリーダーのアネキが僕を待っていた。
「できましたよ、アネキ」
 僕は一週間かけて考えた新曲の歌詞をアネキに渡す。秋の高校文化祭で演奏する予定の曲だ。

 天に上りし意地悪サルは
 地を這うカニに柿投げつける
 崩れた柿の下敷きになり
 壊れた殻から子供出る
 怒れよ子カニ 復讐だ
 髪ふり乱すサルをやっつけろ
 天のご加護を味方につけて
 狗となるのは栗蜂糞臼
 無いはずの囲炉裏の中身が大爆発
 理を貫く蜂の針
 心から悔いな この糞サル
 中から出たら臼落ちる

「なんだ、これ。浪曲でもやろうってのか、お前は!?」
「だってアネキ、先生は文学作品をネタにすれば出させてくれるって言ってたじゃないですか」
 文化祭に出演させてもらえないかと、顧問の遠藤先生に掛け合ったのがちょうど一週間前のことだった。
『なに、バンドの名前はDDH? ヘリ搭載型護衛艦のことか?』
『先生、バカなこと言わないで下さいよ。”どんだけ放課後”を略してDDHなんですから』
『出演を許可をするにしても、文化祭なんだから、何か文化っぽいことをやらないとダメだぞ。お前らは大音量で迷惑なんだし、許可する俺の身にもなって欲しいもんだ。そうだ、歌詞を文学作品から引用するってのはどうだ? そういうのなら許可してやる』
 だから僕はこの一週間、さるかに合戦をモチーフにした歌詞作りに取り組んでいたのだ。

「ちわっス。おっ、サトル、またアネキに怒られてめそめそしてんのか?」
 挨拶をしながらベースのショウが部室に入ってくる。その後に続いて、ドラムのユウヤさんもやって来る。
「ショウ、これ見てやってくれよ」
 アネキが歌詞を書いた紙をショウに渡す。
「ほお、さるかに合戦っスか? 七七調だから古臭えんじゃねえっスか?」
「栗が大爆発っていうのは、面白いと思うけどな」
 フォローしてくれるのはユウヤさんだけだ。
「もっと現代風にしようぜ。現代風によ」
「そんなこと言ったって、どうすればいいんですか? アネキ」
「そうだな、カニが持ってたのは握り飯じゃなくてMDMAってのはどうだ?」
「♪かにがちゅーどく かにがちゅーどく」
 すかさずショウがシャウトする。
「おお、いいじゃん、ショウ。そんな感じで行こうぜ」
「そんな歌詞、先生が許可してくれますか? アネキ」
「バカだな、サトル。許可をもらうときはお前の歌詞で出すんだよ。許可が下りちまえばこっちのもんさ。お前ならできるよな」
 アネキが僕の目を見る。そうだ、本番で歌うのはギターの僕なんだから。
 僕は覚悟を決め、歌詞を持って職員室に向かった。

「それにしてもサトルのやつ、普段はオドオドして草食系のくせして、一度ピックを握ったら別人になるのは本当に不思議だよな」
「そういうアネキも変身するじゃないっスか。アネキのピアノ、泣けるって評判っスよ」
「真顔で言うなよショウ。照れるじゃねえか」
「ショウ。俺とアネキは三年生だから今年が最後でいいが、お前とサトルは来年もあるからな。あまりサトルを焚きつけて本番で暴れさせると、来年はステージに上がれなくなるぞ」
「心配ないっスよ、ユウヤさん。オレがちゃんとサトルのことフォローしますから」

 そして僕達は文化祭のステージに立った。袖で出番を待っていた時はあんなに緊張していたのに、ギターを構えてスポットライトが当たるとすっと落ち着くのは何故だろう。
「ようこそ、DDHのライブに。一発目は、ロックさるかに合戦!」
 アネキの紹介に続いて、ユウヤさんのスティックがカウントを刻むと、ミュートの効いたショウのベースが小粋なリズムを作り出す。さあ、いよいよ僕の出番だ。ディストーションを効かせてジャーンと一発。ああ、これだよライブは。気持ちいい。
「♪俺はカニだ、中毒カニだ」
 なんか歌詞が違うっぽいけど、まあいいか。
「♪サルが来たりて、俺のクスリを欲しがった」
 アネキのアイディアをいただいちまったぜ。
「♪すぐいる? Do you want me right away?」
 やっぱ英語を入れなきゃロックっぽくないよな。
「♪ミゴロシ、ミゴロシ、カニをミゴロシだぜ」
 全国のよい子達よ、よく聞け。今のさるかに合戦はカニもサルも死なねえが、昔はどっちも死んじまう話だったんだぞ。
「♪サツガイ、サツガイ、サルをサツガイせよ~」
 こうして僕達は、民話やグリム童話なんかのエグイ部分をストレートに歌い続けていった。

「先生、来年は出演できないって、あんまりですよ」
「お前ら、あんな曲歌っておいて言い訳するのかよ。俺はすごく恥ずかしかったんだぞ」
 文化祭が終わると、遠藤先生はご立腹の様子だ。
「ほら、最近の童話って、主人公が死なないようにソフトに脚色してあるじゃないですか。それを僕達は、本来の姿に戻してあげただけなんですよ」
「ダメなものはダメだ。もっと反省しろ」
 結局ショウは、一度も僕をフォローしてくれなかった。



即興三語小説 第75回投稿作品
▲お題:「シャウト」「栗」「めそめそ」
▲縛り:「登場人物が4人以上」「縦読みできる(任意)」「第四の壁を破る(任意)」
▲任意お題:「にがちゅー」「ヘリ搭載型護衛艦」「天地崩壊怒髪天狗無理心中」「大音量」

恋心霊2010年09月26日 22時38分54秒

 恋した瞬間に死んでしまったら――
 そんなことを考えるようになったのは、サークルの後輩、さくらの影響だった。今でも目を閉じると、彼女のその柔らかなささやきを思い出すことができる。
『先輩、恋した瞬間に死んでしまったら、どうしますか?』
 さくらは瞬きもせずに僕を見つめてそう言った。
 それはそれでいいのかもしれない。ただし苦痛を伴わないのなら。脳内がピンクのまま、幸せな気持ちに包まれて逝くのは、ある意味理想的な死に方かもしれない。
『でもね、先輩。そんな逝き方をすると、心蔵に恋心霊が宿るんだそうですよ』
 恋心霊? はたしてそんな霊が存在するのだろうか?
『それでね、その心蔵が業火に焼かれる時、恋心霊は大空に放たれ、熱い熱いと言いながら北極に向かって飛んで行くんだそうです。その写真を撮りに行きませんか?』
 心蔵が焼かれる時って、火葬場にでも行こうとでもいうのだろうか。いくら可愛い後輩の頼みとは言っても、それはちょっと恐い。
 僕が少し渋い顔をしていると、桜は上目遣いで再び僕の瞳を見つめてきた。まるで昨日死んだのが自分で、その霊を僕に成仏させてほしいかの如く。
『撮ってもらいたいんです、先輩に』
 その真剣なまなざしに、僕はさくらの頼みを承諾した。

 ――恋心霊写真
 そんな伝説があることを、僕はその夜、ネットで知った。
 写真に撮られた恋心霊は、その撮影者が恋した相手だった場合、一生その人の心に宿ることができるという。もし撮影者が恋した相手ではなかった場合でも、撮られた霊同士で仲良く一緒に北極に渡ることができるらしい。
 それがさくらの願いなのか? それではもう、さくらは生身の人間ではないのだろうか?
 そんなことを考えながら駅でさくらを待っていると、白い可愛らしいワンピース姿で彼女は現れた。
「先輩、お待たせ」
 にこやかに微笑む彼女は、とても幽霊とは思えなかった。

「♪小田急線の窓に 今年もさくらが映る」
 二人が乗った電車が大きな川に差し掛かると、突然さくらが歌を呟き始める。それは僕にだけ聞こえるように。
 この歌はどこかで聴いたことがある……
 過ぎ行く鉄橋を見ながら何という歌だったか考え込んでいると、さくらが僕の服の袖を引っ張った。
「ねえねえ先輩。私、ちゃんと窓に映っていますか?」
 電車の窓に反射した車内を見ると――さくらはやはり映っていなかった。僕や他の乗客はちゃんと映っているのに。そこは、さくらだけが居ない幻の世界。いや本当は、そちらが僕が居るべき通常の世界なのかもしれない。
「あ、ああ。ちゃ、ちゃんとさくらは……」
『本厚木~、本厚木~』
 本当のことを言うべきかどうか迷っているうちに、電車は速度を落とし、僕の声はアナウンスにかき消されてしまった。僕はさくらに促されるまま駅で電車を降りる。これからさくらは、僕をどこに連れて行こうというのだろうか。

 さくらの後について十分くらい歩くと、先程電車で渡った川が見える場所に出た。目の前に大きな橋があり、そこを吹き抜ける秋風が二人の髪を揺らす。
「♪ふたりで通った 春の大橋」
 先程の歌を、さくらがまた歌い出す。
「さくら、それって何て歌だったっけ?」
「この街を舞台にした恋物語です。そんな青春、送ってみたかったなぁ。それより先輩、目的地が見えてきましたよ」
 前を向くと川辺の広場に沢山の屋台が所狭しと並んでいる。どう見ても、何かのお祭り会場にしか見えない。
 火葬場に行くんじゃなかったのか?
 僕が不思議に思っていると、さくらは一番列の長い屋台に近づいた。
「おい、さくら、これに並ぶのか? 二時間待ちって書いてあるぞ」
「そうですよ、先輩。私にとってこの二時間は長くはないです。むしろ短いくらい。だって最後の二時間なんですから……」
 そう言いながら、さくらは僕の手を握ってきた。それは温かな手だった。とても幽霊とは思えないくらい。

 言葉は要らなかった。
 僕がさくらの手をぎゅっと握ると、彼女も握り返してきた。人差し指の掌に移動させると、彼女の人差し指もやってくる。まるで、二人の掌で囲まれた小さなダンスホールだ。そこには祭り会場の喧騒も届かない、秋風の冷たさからも守られた二人だけの世界。
 こうして僕達は、あっという間の二時間を過ごした。

 気がつくと僕達は屋台の前まで来ていた。醤油のいい香りがする。屋台の名前を見ると『甲府鳥もつ煮』と書いてあった。ニワトリのハツ、レバー、砂肝、キンカンを砂糖と醤油で照り煮したB級グルメらしい。僕は二人分の鳥もつ煮を注文する。
「美味しい~。わざわざ来た甲斐がありましたね、先輩!」
 満面の笑みで鳥もつ煮を頬張るさくら。これが最後の瞬間とは思えない無邪気振りに、僕の頭に一つの疑問が浮かぶ。
「さくら。もしかしたら、今までの恋心霊騒ぎは嘘だろ。これが食べたかっただけじゃないのか?」
「へへへ、先輩。ばれました?」
 ペロっと舌を出しながらさくらはバッグに手を伸ばし、ポーチを取り出す。
「はい先輩、屋台をバックに写真を撮って下さい。記念に」
「写真ってそういうことかよ。全く、しょうがないなあ……」
 拍子抜けしながら僕はカメラのファインダーを覗く。すると――屋台がなにかピンク色の煙みたいなものに包まれている。
 驚いてカメラを離すと、屋台は普通のままだ。しかし、またファインダーを覗くとやはりピンクの煙に包まれていた。よくよく見ると、そのピンクの煙は鳥もつ煮のハツから出ているようだった。
『先輩。それが恋心霊なんですよ』
 僕の狼狽を察知したかのように、さくらの声が頭に響く。
 そうか、確かハツは鳥の心臓だったっけ。
 そう思いながらカメラをさくらの方に向けると、彼女もピンクの煙に包まれていた。
『先輩、お別れです』
 僕がびっくりしてファインダーから目を外そうとすると、再びさくらの声が頭に響く。
『ダメ。カメラを外すと、もう二度と私が見れなくなりますよ』
 きっと、現実にはもうさくらの姿は見えなくなっているのだろう。ファインダー越しの彼女も、だんだんとその形が薄れてきている。
『シャッターを押して下さい。そうすれば、私はこの鳥達と一緒に飛んでいくことができます』
 えっ、写真を撮れば、僕の心に一生宿るんじゃ……
 そう言おうとしたが、何か自惚れのような気がして言えなかった。でもさくらには、僕の考えていることが伝わっていたようだ。
『だって、私は先輩に恋した瞬間じゃなかったから』
 消え行くさくらに向かってシャッターを押す瞬間、彼女の口がそう動いたように見えた。いや、実際は違ったかもしれない。でも、そう動いたんじゃないかと、十年経った今でもそのシーンが僕の心に焼き付いて離れない。



即興三語小説 第74回投稿作品
▲お題:「心霊写真」「脳内がピンク」「北極」
▲縛り:「B級グルメが出てくる」
▲任意お題:「新訳」「ホラー祭り」「ふんわかふりふり」