鶏が先2020年12月24日 21時09分28秒

「それってまるで、鶏が先か、卵が――」
 アツシが小難しい禅問答に持ち込もうとしたから、先制攻撃してやった。
「犬が先か、でしょ?」
「ああ?」
 呆然とするアツシ。私は畳みかける。
「あんたはどっちが先だと思う? 鶏か、犬か」
「何の話?」
「いいから、どっち?」
 反論の隙なんて与えてあげない。根負けした彼が呟いた。
「鶏が先じゃねえの? ほら、鶏は十番目で犬は十一番目だろ?」
 むふふ、やっぱそう来たか。
「あんた中国人? 日本人なら犬が先でしょ」
「はあ? どっからそんなこと」
「桃太郎。家来になるのは犬が先なんだよ」
「むはっ、それかよ」
 ちょっと考え事するアツシは反撃を開始した。
「いいかサキ。桃太郎の家来も中国の故事から来てるんだぜ。もし犬があの時、もっと早く到着してたら家来は羊と猿と雉だったんだ」
「えっ?」
 そうなの?
「だから、鶏が先」
 でも待って。何かおかしい。
「それって……よく考えたら、犬が先ってことじゃない?」
「えっ?」
 彼も矛盾に気づいたようだ。青い顔してる。
 ――鶏が先なら犬が先になって、犬が先なら犬は先にならない?
 なんだかよく分からなくなった私たちは、通学路でそっと手を繋いだんだ。



500文字の心臓 第179回「鶏が先」投稿作品