たたまない男2005年11月14日 18時00分02秒

オレはたたまない男。たためない男なんかじゃない。

でも、どうやってたたむのだろう。あのTシャツなんか。
首から縦に2つ折りして、あとはくるくるってやればいいのに。
わざわざ後ろ向きに広げて、縦に3つ折り、そしてさらに袖を・・・
ああ、めんどくさい。あれを立ったままやってしまう店員さんは、
なんてすごい特技を持っているんだ。

家では、オレが干して、オマエがたたむ。
そう決まっている、と思っている。
でも、オマエはいつも言う。なんで、たたんでくれないの?と。
だって、オレがたたんでしまったら、
オマエは家でやることがなくなっちゃうじゃないか。
皿洗いはオレがやってるんだから・・・。
共働きなんだから、家事は分担だよ。
たたむことで、オマエは妻としてのアイデンティティを保てているのさ。
誰のおかげだと思っているんだ。

と、一度は言ってみたいけど、怖くてとても口にできない。
たたんでもいいんだけど、本当はたたみ方を知らない。
だからオレは、たたまない男を必死に演じている。


へちま亭文章塾 第1回「衣」投稿作品

だいこん2005年11月28日 12時42分11秒

「だいこんなんて、だいっキライ!」
おでんを前にして息子が叫ぶ。
そんな光景に、ふと昔の自分の姿を重ねる。
何を隠そう、自分もだいこんが大嫌いだった。

だいこんが食べられるようになったのは、一人暮らしを始めてから。
食費が乏しい中、食べられないものがあるということは、
大問題だったからである。
かといって、すぐに食べられるようになったわけではない。
かたくなに拒み続けた食物を、改めて口に入れるということは、
かなり勇気のいることだった。
そんな自分の背中を押してくれたのは、
幼少の頃に体験したある出来事である。

あれは冬の夜、寒さに耐えかねて屋台に駆け込んだ時のことだった。
両親はおでんのだいこんを注文し、おいしそうにそれを食べた。
空腹で寒かったこともあるのだろう。
でも、それはそれはとても、おいしそうだった。

「実は、だいこんはおいしいのでは?」
あの時の両親の顔を思い浮かべなかったら、
こんなことは決して思わなかっただろう。
こうして、久しぶりにだいこんを食べてみた。
二十歳になって食べただいこんは、おいしかった。

自分が親になって、思うことがある。
最も効果的な教育とは、
親が自分の人生を精一杯生きることではないだろうか。
自分ができないようなことを子供に要求しても、
子供は見向きもしてくれない。
子供は、親のウソを見抜く力を持っている。

「やっぱり食べられなーい!」
泣き叫ぶ息子を横目で見ながら、だいこんを口に入れる。
おいしいものを、おいしく食べる。
自分は息子に、どんな顔を見せることができるだろうか。


へちま亭文章塾 第2回「食」投稿作品