レストラン青山 ― 2007年11月19日 23時38分37秒
「あれマダムじゃない?レストラン青山の」
満員バスの中で、よう子が僕の脇腹をつつく。
「似てるけど…、こんなバスに乗るか?高級フランス料理店のマダムが」
バスはサッカースタジアムに向かう人達で一杯だ。
「でも、車で来た人って全員このバスに乗るんでしょ?」
そうだった。どんな高級車で来ても、駐車場からこのバスに乗る羽目になる。
普段は決して交わることのないセレブと庶民。
プチローマの休日のような再会に、心がざわめく。
「あのう…、失礼ですが…」
ご婦人の席まで移動し、僕は意を決して声をかけた。
やはりマダムだった。
「結婚式ではお世話になりました!」
僕とよう子の声がそろった。
僕達は青山で結婚式を挙げた。
マダムが新しく建てた、結婚式用の別館で。
当時、レストラン業界はブライダルブームだった。
しかしブームが去った後、その別館は無くなった。
偶然青山に寄った僕は、跡地を見て呆然とした。
店の都合で、自分達の人生が弄ばれたような気がした。
そのことをマダムに問いてみたい。
世間話をしているうちに、僕はその衝動を抑えきれなくなった。
「私も残念だったの。いろいろあってね…」
悲しそうにマダムは俯いた。
これ以上聞いてはいけないと、消えた笑顔が語っていた。
結婚式の当日――
「良かったですね、いい天気になって」
そう言いながら、マダムは中庭の屋根を開けてくれた。
見上げると、東京とは思えない青空が広がっている。
よう子はその日差しの中を、今は亡き義父に連れられて僕の元へやって来た。
白く、まぶしい、そんな記憶だ。
バスがスタジアムのゲートをくぐる。
プチローマの休日も、あと少しで終わりだ。
僕は何をこだわっているのだろう。
マダムは僕達に、素敵な想い出をくれたじゃないか。
「子供達が大きくなったら、みんなで本館に食べに行きます」
そう宣言すると、マダムは顔を上げた。
「お待ちしています」
スタジアムの歓声が突然止んだような、そんな気がした。
こころのダンス文章塾 第20回記念企画「旨いもの」宿題
満員バスの中で、よう子が僕の脇腹をつつく。
「似てるけど…、こんなバスに乗るか?高級フランス料理店のマダムが」
バスはサッカースタジアムに向かう人達で一杯だ。
「でも、車で来た人って全員このバスに乗るんでしょ?」
そうだった。どんな高級車で来ても、駐車場からこのバスに乗る羽目になる。
普段は決して交わることのないセレブと庶民。
プチローマの休日のような再会に、心がざわめく。
「あのう…、失礼ですが…」
ご婦人の席まで移動し、僕は意を決して声をかけた。
やはりマダムだった。
「結婚式ではお世話になりました!」
僕とよう子の声がそろった。
僕達は青山で結婚式を挙げた。
マダムが新しく建てた、結婚式用の別館で。
当時、レストラン業界はブライダルブームだった。
しかしブームが去った後、その別館は無くなった。
偶然青山に寄った僕は、跡地を見て呆然とした。
店の都合で、自分達の人生が弄ばれたような気がした。
そのことをマダムに問いてみたい。
世間話をしているうちに、僕はその衝動を抑えきれなくなった。
「私も残念だったの。いろいろあってね…」
悲しそうにマダムは俯いた。
これ以上聞いてはいけないと、消えた笑顔が語っていた。
結婚式の当日――
「良かったですね、いい天気になって」
そう言いながら、マダムは中庭の屋根を開けてくれた。
見上げると、東京とは思えない青空が広がっている。
よう子はその日差しの中を、今は亡き義父に連れられて僕の元へやって来た。
白く、まぶしい、そんな記憶だ。
バスがスタジアムのゲートをくぐる。
プチローマの休日も、あと少しで終わりだ。
僕は何をこだわっているのだろう。
マダムは僕達に、素敵な想い出をくれたじゃないか。
「子供達が大きくなったら、みんなで本館に食べに行きます」
そう宣言すると、マダムは顔を上げた。
「お待ちしています」
スタジアムの歓声が突然止んだような、そんな気がした。
こころのダンス文章塾 第20回記念企画「旨いもの」宿題
ダイコン ― 2007年10月29日 00時39分31秒
「ダイコンなんて、だいっキライ!」
ブリ大根を前にして息子が叫んだ、らしい。
そんな話を妻から聞いて、ふと昔の自分を思い出す。
何を隠そう、自分もダイコンが大嫌いだった。
だいこんが食べられるようになったのは、一人暮らしを始めてから。
通っていた大学の前に、旨い小料理屋があったおかげだ。
そこのおでんを食べている時に、ふとある疑惑が湧き起こった。
自分のダイコン嫌いは、母の料理が原因だったのではないのだろうか。
疑惑を抱きながら二十年。
二世帯住宅に引っ越して七年。
ついにその疑惑が、確信に変わる日がやってきた。
謎を解く鍵は、母が作った目の前のブリ大根だ。
「こりゃ、だいこんじゃなくてダイコンだよ・・・」
思わずぼやいてしまう。
煮込みが足りず、中が白くて硬い。
ぶりの旨味がしみ込んでないから、すごく苦い。
でも、なんだろう、この不思議な感覚は。
記憶の奥底に沈んでいる何かを呼び覚ますような味だ。
これがいわゆる“おふくろの味”と云うのだろうか。
むむむ、待てよ。
”おふくろの味”という言葉を使っていいのは、
旨いものに対してなんじゃないのか?
このブリ大根は、ものすごく不味いぞ。
でも旨くならないものに対しては、使ってもいいような気がする。
だって、母の料理が日増しに旨くなって、
いつの間にか三ツ星レストラン級になっちまったら、
それは”おふくろの味”とは言えないんじゃないだろうか。
さらば”おふくろの味”と、ごみ箱を開けたところで、
妻に見つかってしまった。
「子供達は泣きながら食べたのに…」
ギロっと睨みながら、捨てたらみんなにバラすわよ、なんて、
恐ろしいことをさらりとおっしゃってくれる。
結局、明日の朝、子供達の前でブリ大根を食べることになった。
「やっぱり食べたくなーい!」
泣き叫びたい気持ちを抑えながら考える。
不味くても、おいしそうに食べる?
それとも、正直に不味そうに食べる?
自分は息子に、どんな顔を見せてしまうのだろうか。
こころのダンス文章塾 第20回記念企画「旨いもの」投稿作品
ブリ大根を前にして息子が叫んだ、らしい。
そんな話を妻から聞いて、ふと昔の自分を思い出す。
何を隠そう、自分もダイコンが大嫌いだった。
だいこんが食べられるようになったのは、一人暮らしを始めてから。
通っていた大学の前に、旨い小料理屋があったおかげだ。
そこのおでんを食べている時に、ふとある疑惑が湧き起こった。
自分のダイコン嫌いは、母の料理が原因だったのではないのだろうか。
疑惑を抱きながら二十年。
二世帯住宅に引っ越して七年。
ついにその疑惑が、確信に変わる日がやってきた。
謎を解く鍵は、母が作った目の前のブリ大根だ。
「こりゃ、だいこんじゃなくてダイコンだよ・・・」
思わずぼやいてしまう。
煮込みが足りず、中が白くて硬い。
ぶりの旨味がしみ込んでないから、すごく苦い。
でも、なんだろう、この不思議な感覚は。
記憶の奥底に沈んでいる何かを呼び覚ますような味だ。
これがいわゆる“おふくろの味”と云うのだろうか。
むむむ、待てよ。
”おふくろの味”という言葉を使っていいのは、
旨いものに対してなんじゃないのか?
このブリ大根は、ものすごく不味いぞ。
でも旨くならないものに対しては、使ってもいいような気がする。
だって、母の料理が日増しに旨くなって、
いつの間にか三ツ星レストラン級になっちまったら、
それは”おふくろの味”とは言えないんじゃないだろうか。
さらば”おふくろの味”と、ごみ箱を開けたところで、
妻に見つかってしまった。
「子供達は泣きながら食べたのに…」
ギロっと睨みながら、捨てたらみんなにバラすわよ、なんて、
恐ろしいことをさらりとおっしゃってくれる。
結局、明日の朝、子供達の前でブリ大根を食べることになった。
「やっぱり食べたくなーい!」
泣き叫びたい気持ちを抑えながら考える。
不味くても、おいしそうに食べる?
それとも、正直に不味そうに食べる?
自分は息子に、どんな顔を見せてしまうのだろうか。
こころのダンス文章塾 第20回記念企画「旨いもの」投稿作品
コーヒーハウスにて ― 2007年10月29日 00時17分24秒
「ええっ!今から行くの?」
「ほら学園祭、まだやってるし」
「やだよ、無茶苦茶だよ先輩。じゃあねバイバイ(ガチャ)」
「おい、よう子!よう子…」
プーーー
最悪だ。
席に戻ると、飲みかけのコーヒーカップがかちゃりと音をたてる。黒の波紋が、俺を嘲笑っているかのようだ。テーブルの上で右手を開くと、公衆電話から戻ってきた小銭達が回り出す。こんなに十円入れて、俺は何を期待してたんだ。
そもそも俺は、ここで美香さんを待っていた。
「美味しいコーヒーを出す店があるんですよ。三時にそこでお待ちしています」
「考えておきますわ」
美香さんがそんな風に俺の誘いを受け流すようになって、一ヶ月になる。待合せに来なかった事はすでに二回。でも、美香さんの心が離れてしまったとは思いたくなかった。時計は四時を回っている。決定的な三連敗を認めたくない俺は、何を思ったのか気のいい後輩、よう子に電話をかけていた。
もともと俺は、ミルクが無くてはコーヒーが飲めない。
「あら、すぐにミルクを入れてしまっては、コーヒーの香りを楽しめなくてよ」
美香さんのそんな言葉が、頭の中で反射する。あの頃はブラックでも平気で飲めた。美香さんの笑顔とコーヒーの香り。二つがとろけあうと、世界一すてきな飲み物が誕生した。でも、今、俺の目の前に置かれているのは、胸をほろ苦くさせるだけの黒い液体。
だったら飲み干してしまえばいいのに。
何度もそう思う。
でも、よう子にも振られた今、美香さんが来てくれることだけが俺の希望なんだ。美香さんに飲んでほしかったこの店のコーヒー。それが目の前から消えて無くなることが恐かった。
「先輩!来てやったよ」
突然扉を開けたのは、よう子だった。
「はやくぅ~、学園祭終わっちゃうよーっ!」
よう子が向かいの席に腰掛けた瞬間、テーブルに忘れられてたミルクの白い波紋がくすっと笑ったような気がした。
「そう急かすなよ」
俺はコーヒーにミルクを注ぐと、ぐいっと一気に飲み干した。
こころのダンス文章塾 第20回「珈琲の香り(扉)」投稿作品
「ほら学園祭、まだやってるし」
「やだよ、無茶苦茶だよ先輩。じゃあねバイバイ(ガチャ)」
「おい、よう子!よう子…」
プーーー
最悪だ。
席に戻ると、飲みかけのコーヒーカップがかちゃりと音をたてる。黒の波紋が、俺を嘲笑っているかのようだ。テーブルの上で右手を開くと、公衆電話から戻ってきた小銭達が回り出す。こんなに十円入れて、俺は何を期待してたんだ。
そもそも俺は、ここで美香さんを待っていた。
「美味しいコーヒーを出す店があるんですよ。三時にそこでお待ちしています」
「考えておきますわ」
美香さんがそんな風に俺の誘いを受け流すようになって、一ヶ月になる。待合せに来なかった事はすでに二回。でも、美香さんの心が離れてしまったとは思いたくなかった。時計は四時を回っている。決定的な三連敗を認めたくない俺は、何を思ったのか気のいい後輩、よう子に電話をかけていた。
もともと俺は、ミルクが無くてはコーヒーが飲めない。
「あら、すぐにミルクを入れてしまっては、コーヒーの香りを楽しめなくてよ」
美香さんのそんな言葉が、頭の中で反射する。あの頃はブラックでも平気で飲めた。美香さんの笑顔とコーヒーの香り。二つがとろけあうと、世界一すてきな飲み物が誕生した。でも、今、俺の目の前に置かれているのは、胸をほろ苦くさせるだけの黒い液体。
だったら飲み干してしまえばいいのに。
何度もそう思う。
でも、よう子にも振られた今、美香さんが来てくれることだけが俺の希望なんだ。美香さんに飲んでほしかったこの店のコーヒー。それが目の前から消えて無くなることが恐かった。
「先輩!来てやったよ」
突然扉を開けたのは、よう子だった。
「はやくぅ~、学園祭終わっちゃうよーっ!」
よう子が向かいの席に腰掛けた瞬間、テーブルに忘れられてたミルクの白い波紋がくすっと笑ったような気がした。
「そう急かすなよ」
俺はコーヒーにミルクを注ぐと、ぐいっと一気に飲み干した。
こころのダンス文章塾 第20回「珈琲の香り(扉)」投稿作品
英雄 ― 2007年04月16日 00時06分16秒
午前11時37分。飛行機の中でこれを書いている。
20分ほど前に、この飛行機はハイジャックされた。
犯人は3人くらい。銃を持っている。
乗客は下を向かされているので、それ以上は分からない。
銃声と悲鳴が聞こえたから、犠牲者もいるだろう。
ハイジャックの目的は何だ?
金や身柄の解放ならいいが、テロだったらどうする?
突入を阻止しなければ、確実に死ぬことになるぞ。
かといって、犯人達は銃を持っている。
無駄な抵抗をして死ぬか、そのまま黙って死ぬか、どちらかだ。
死ぬのは嫌か?-怖い
怖くなかったらいいのか?-でも嫌だ
死を免れて良い事はあるのか?-娘の結婚式に出れる
見知らぬ男に取られるんだぞ?-それは嫌だ
ダメだ。こんな時に考え事をしても堂々巡りだ。
えっ、なに? 国会議事堂に突入だって!?
これはテロだったのだ。犯人達を倒さないと確実に死ぬ。
何でもいい、武器になるものはないか。
幸い、足元にカバンがあった。
展示会での出品機器が詰められている。
その中に、耐熱耐衝撃ケース”頑丈くん”があった。
特殊な合金でできていて、小さいながらもずしりと重い。
こいつを犯人の顔に投げつければ、一人は倒せるかもしれぬ。
後は、他の乗客がどれだけ蜂起してくれるかだ。
飛行機が降下を始めた。
もうごちゃごちゃと考えている時間は無い。
どのみち死ぬんだ、行動しよう。
桃香よ、弟の面倒をみるんだぞ。
修、早く大きくなって母さんのことを守ってくれ。
そしてよう子、愛している。
僕は震える手で手紙を書き終え、”頑丈くん”に入れて固く蓋を閉めた。
これで最悪の場合でも、家族は僕のことを誇りにしていけるだろう。
そして僕は、再び前のシートに頭を押し付け、必死に祈り続ける。
誰かが、自分以外の誰かが、犯人達を倒してくれますように。
自分が犠牲になって他人を助けても、それではもう家族には会えないのだ。
安全に助かる唯一の方法は、誰かがやってくれるのを待つだけなのだから…
こころのダンス文章塾 第15回「生きていく喜び」投稿作品
20分ほど前に、この飛行機はハイジャックされた。
犯人は3人くらい。銃を持っている。
乗客は下を向かされているので、それ以上は分からない。
銃声と悲鳴が聞こえたから、犠牲者もいるだろう。
ハイジャックの目的は何だ?
金や身柄の解放ならいいが、テロだったらどうする?
突入を阻止しなければ、確実に死ぬことになるぞ。
かといって、犯人達は銃を持っている。
無駄な抵抗をして死ぬか、そのまま黙って死ぬか、どちらかだ。
死ぬのは嫌か?-怖い
怖くなかったらいいのか?-でも嫌だ
死を免れて良い事はあるのか?-娘の結婚式に出れる
見知らぬ男に取られるんだぞ?-それは嫌だ
ダメだ。こんな時に考え事をしても堂々巡りだ。
えっ、なに? 国会議事堂に突入だって!?
これはテロだったのだ。犯人達を倒さないと確実に死ぬ。
何でもいい、武器になるものはないか。
幸い、足元にカバンがあった。
展示会での出品機器が詰められている。
その中に、耐熱耐衝撃ケース”頑丈くん”があった。
特殊な合金でできていて、小さいながらもずしりと重い。
こいつを犯人の顔に投げつければ、一人は倒せるかもしれぬ。
後は、他の乗客がどれだけ蜂起してくれるかだ。
飛行機が降下を始めた。
もうごちゃごちゃと考えている時間は無い。
どのみち死ぬんだ、行動しよう。
桃香よ、弟の面倒をみるんだぞ。
修、早く大きくなって母さんのことを守ってくれ。
そしてよう子、愛している。
僕は震える手で手紙を書き終え、”頑丈くん”に入れて固く蓋を閉めた。
これで最悪の場合でも、家族は僕のことを誇りにしていけるだろう。
そして僕は、再び前のシートに頭を押し付け、必死に祈り続ける。
誰かが、自分以外の誰かが、犯人達を倒してくれますように。
自分が犠牲になって他人を助けても、それではもう家族には会えないのだ。
安全に助かる唯一の方法は、誰かがやってくれるのを待つだけなのだから…
こころのダンス文章塾 第15回「生きていく喜び」投稿作品
親の都合 ― 2007年01月29日 00時07分07秒
「親の都合で、子供を振り回すんじゃない!」
久しぶりにオヤジに怒鳴られた。
孫との団らんを、オレに邪魔されたのが不満らしい。
オヤジは毎朝、孫とのテレビを楽しみにしている。
畳にちょこんと座る姿は、後ろから見てもかわいいものだ。
それをオレが無理やり連れて行ったものだから、
オヤジは怒ったのだ。
でもこれは、子供のためでもある。
息子はもうすぐ小学一年生。
学校が遠いため、毎朝二キロもの道のりを歩かなくてはならない。
だから、今のうちに息子を鍛えねばならぬ。
毎朝のんびりとテレビが見られる時は、もう終わったのだ。
息子は、未熟児寸前で生まれた。
五歳になっても体の線は細く、保育園の送迎も車に乗せている。
そんな息子が、いきなりランドセルを背負って小学校に通えるのか、
心配でたまらない。
そこで思いついたのが、保育園への徒歩通学。
距離も、小学校の半分くらいでちょうどよい。
体力の増強に一役買うことはもちろん、
歩きながら交通ルールを教えることもできる。
道端の自然に季節の移り変わりを探せば、
親子の語らいもはずむだろう。
ほほを刺す木枯らしが、だんだんとやわらかな風に変わり、
つくしが生えてタンポポが咲いたら、もう一年生だ。
そうだ、これは子供のためなのだ。
オヤジに堂々と反論しよう。
オレのウォーキングダイエットや、
自転車通学する女子高生達との遭遇ってのもあるけど、
圧倒的に、子供へのメリットの方が大きいのだ。
勝手にすれば、と、妻も応援してくれている。
「オヤジ! オレからも言わせてもらうぞ。
あんただって、親の都合で子供を振り回してただろうが。
だからオレは、こんな親になったんだよ!」
あれれ?こんな事を言うつもりじゃなかったのに・・・
オレの完璧な論理は、どこへ行ったんだ?
「ふふっ、同じ様にあんたもお父さんに連れて行ってもらってたのよ」
二人の喧嘩を笑う、オフクロの声が聞こえてきた。
こころのダンス文章塾 第13回「春:家族のいる風景」投稿作品
久しぶりにオヤジに怒鳴られた。
孫との団らんを、オレに邪魔されたのが不満らしい。
オヤジは毎朝、孫とのテレビを楽しみにしている。
畳にちょこんと座る姿は、後ろから見てもかわいいものだ。
それをオレが無理やり連れて行ったものだから、
オヤジは怒ったのだ。
でもこれは、子供のためでもある。
息子はもうすぐ小学一年生。
学校が遠いため、毎朝二キロもの道のりを歩かなくてはならない。
だから、今のうちに息子を鍛えねばならぬ。
毎朝のんびりとテレビが見られる時は、もう終わったのだ。
息子は、未熟児寸前で生まれた。
五歳になっても体の線は細く、保育園の送迎も車に乗せている。
そんな息子が、いきなりランドセルを背負って小学校に通えるのか、
心配でたまらない。
そこで思いついたのが、保育園への徒歩通学。
距離も、小学校の半分くらいでちょうどよい。
体力の増強に一役買うことはもちろん、
歩きながら交通ルールを教えることもできる。
道端の自然に季節の移り変わりを探せば、
親子の語らいもはずむだろう。
ほほを刺す木枯らしが、だんだんとやわらかな風に変わり、
つくしが生えてタンポポが咲いたら、もう一年生だ。
そうだ、これは子供のためなのだ。
オヤジに堂々と反論しよう。
オレのウォーキングダイエットや、
自転車通学する女子高生達との遭遇ってのもあるけど、
圧倒的に、子供へのメリットの方が大きいのだ。
勝手にすれば、と、妻も応援してくれている。
「オヤジ! オレからも言わせてもらうぞ。
あんただって、親の都合で子供を振り回してただろうが。
だからオレは、こんな親になったんだよ!」
あれれ?こんな事を言うつもりじゃなかったのに・・・
オレの完璧な論理は、どこへ行ったんだ?
「ふふっ、同じ様にあんたもお父さんに連れて行ってもらってたのよ」
二人の喧嘩を笑う、オフクロの声が聞こえてきた。
こころのダンス文章塾 第13回「春:家族のいる風景」投稿作品
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