一人だけ2010年10月03日 00時23分24秒

エッチな表現があります。
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「アルコール、入りました!」
 イメクラ”一人だけ”の控え室にコールの掛け声が響く。
 アルコール――これは、お酒のことではない。このお店の隠語で、ナイコールと対になって使われるサービスの一つだ。
 サービス料は、ナイコールが三十分三千円なのに対してアルコールは三十分三万円。そう、桁が一つ違うこのお店の特別サービス。
「カオリちゃん、出番よ」
 カオリは覚悟を決めたように静かに立ち上がり、ゴクリと唾を飲む。
 このお店に来て三日目。いつかはこの日がやってくるとは思っていたが意外と早かった。一週間くらいは大丈夫だと思っていたのに。
「指定はスク水です」
 しかも、今回のコスチュームはスクール水着だという。
 カオリは服を脱ぎ、下着を外す。そしてスクール水着に着替えた。ボリュームのあるカオリにとって少し窮屈だ。
「これが大人になる瞬間なのね……」
 鏡に自分の姿を映しながら、この場所から逃げ出したい自分をじっと見つめる。
 実はカオリは今回が初体験。失恋した直後にこのお店で働くことを決め、その時に覚悟したつもりだったのに、いざその時になると怖気づいてしまう。
「ダメだ。こんなんじゃ。あの人と上手くいってれば、今頃はすでに体験済みだったはずなのよ」
 カオリは自分の顔を両手で軽く叩き、よしと一つ気合を入れた。

「お待たせしました。カオリでーす」
 イケメンだったらいいのにという願いもむなしく、お客は眼鏡をかけた草食系だった。
「カ、カ、カオリちゃんだね」
「そうでーす。よろしくお願いいたしまーす」 
 カオリは必死に明るく演じた。お客をがっかりさせたら、二度とこの店で働けなくなる。
「お飲み物は何にいたしますか?」
「ビ、ビ、ビールをお願いします」
 どうやらこの客はどもる癖があるようだ。ビールで舌を軽くしようというのだろうか。
「スク水はお好きなんですか?」
 カオリが質問すると、お客の目つきが変わった。
 しまった。どうやら彼のオタク心を激しく揺さぶってしまったみたいだ。
「これは僕の好きなタイプの水着だね。見たところ、ポリエステル80%と予想する。まあ僕くらいになれば、触った瞬間に素材が分かるけどね。最近、ポリエステル100%の水着が多くて嫌気がさしていたんだ」
 これはヤバイお客に当たってしまった……
 カオリが激しく後悔していると、ウエイターがビールを二つ運んできた。ちょうどいい。これは飲まなきゃやってられない。
 しかし、それは異常プレイの始まりだった。
「きゃっ!」
 冷たい感触に驚いたカオリが自分の体を見ると、ビールがかけられていた。
「ご、ご、ごめんね。カオリちゃん。で、で、でも許してね。ぼ、ぼ、僕、水着に染みこんだビールを吸うのが好きなんだ」
 そう言っているうちに、ビールは水着に染みこんでいく。するとお客が唇をカオリの体に近づける。
「あっ、ダメ。いきなりそんなところを吸わないで……」
 カオリが接客する小部屋では、ちゅうちゅうという音が響き渡り始めた。

「カオリのやつ、頑張っているかな」
「僕、このお店で働いて半年になりますが初めてですよ、アルコール」
「でも、たまに来るんだよ、男を求める男性客が」
「だからカオリさんが居るんですね。このお店唯一のニューハーフですもんね」
「そうだよ。展示されている女の子の中に一人だけニューハーフが混ざっている、というのがウチのウリだからな」
「間違って、カオリさんを選んじゃった人は可哀そうですね」
「はははは。でも、好きでニューハーフを選ぶお客もいるんだよ。アレがあるからアルコール。しかも女性用のスク水を着て接客とあっては、その手のお客は大喜びだろう。くっきりと形が浮き上がるからな」
「やめてくださいよ、想像しちゃうじゃないですか」
「お前もやってみるか?」
「バカなこと言わないで下さいよ~」
 控え室では支配人とウエイターがカオリの無事を祈っていた。



一時間で書く即興三語小説
▲お題:「アルコール」「ビールは水」「大人になる瞬間」

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