やわらかな鉱物2014年07月19日 11時04分37秒

「ねえ剛、最後に見せたいものって何?」
 晶子を喫茶店に呼び出した剛は、テーブルの上に置いた右手をゆっくりと開く。掌の中から現れたのは一粒の結晶だった。
「へえ、綺麗ね。それって水晶?」
「トパーズだよ」
「トパーズ? だってそれ透明じゃない?」
「本来、トパーズって透明なんだ。嘘だと思ったら、その水晶のペンダントで擦ってみるといい。やらわかい水晶の方に傷がつく」
「嫌よ。このペンダントは母の形見なんだから。ていうか、それってこの間の仕返し?」

『あなたと居ると私の心が傷つくの。だから距離を置きましょ』
 剛は、晶子の言葉を思い出していた。

「君の言葉で目が覚めた。すべては僕の強がりだったんだ。本来の自分をさらけ出すと僕の方が傷つきそうで、それが恐かった」
 剛はコーヒーを一口含むと、ゴクリと飲み込んだ。
「君を失いたくない。だから、このトパーズのような強がりを捨てる。君となら傷ついても構わない」
 射抜くような視線に根負けした晶子は、剛に右手を差し出す。
「じゃあ、それ貸して。あなたの言葉が本当か試してみるから」
 そして晶子はペンダントに語りかけた。
「いいよね、お母さん?」
 キラリと光る結晶面は、微笑んでいるように見えた。



500文字の心臓 第132回「やわらかな鉱物」投稿作品