河童2013年04月15日 23時08分49秒

 県境付近に円神山という小高い山がある。山頂に不気味な池があって、干ばつにあっても水が枯れることはない。麓の集落で聞くと、ヌシが住んでいるおかげなんだそうだ。
 ある日、県からの調査依頼を受けて山を登る。すると、
「お前、水を汲みに来たんか?」
 いきなり老婆に話しかけられた。
「ええ、県の調査で」
「ならぬぞ。ここは神聖な場所じゃ。水を汲むことは許さん」
「それでは調査ができないんですけど」
「帰れ、お前なんぞ帰れ!」
 すごい剣幕で追い返された。
 次の日は、
「おじちゃん、祟りに遭うよ」
 と小学生。その次の日は、
「あんた、マジしつこい」
 と女子高生。
 この池には、どんなヌシが住んでいるというのだろうか。
「調査報告はまだ? お金払わないよ? これほどの干ばつでも池が枯れないなんて、ちゃんと解明してよね」
 県の担当者にも睨まれる。しかたがないので夜中にこっそり山に登ってみる——と、木々の奥になにやら人影が見えた。
「ほら、ちゃんと引っ張って」
「このホース、マジ重い」
「円神様のお皿を涸らしてはならぬぞ!」
 それは、集落総出で山頂の池に水道水を注ぐ姿だった。



500文字の心臓 第121回「河童」投稿作品