気がつけば三桁2010年12月07日 07時59分59秒

「エネルギー充填、六○%」
「小鯛君、よく狙って撃つのじゃ]
「はい、わかりました新艦長。七○%、八○%、九○%」
「小鯛君。今だっ!」
「一○○%、一一○%、一二○%」
「こ、小鯛君?」
「一三○%、一四○%、一五○%」
「…………」



500文字の心臓 第100回「気がつけば三桁」投稿作品

ミレニアムじゃなくてミニレアム?2010年12月10日 21時33分08秒

「宿題は、十年後の夢についての作文を書くこと!」
 現国の中野が大きな声を張り上げるもんだから目が覚めちまった。
「皆も知ってるように十年後は西暦二千年。千年紀に馳せる夢だからミレニア夢だ。金曜日までにちゃんとやってくるように」
 そして中野が黒板に"ミレニア夢"と大きく書いた。
 おいおい、そんなオヤジギャグを黒板に書くなよ。ていうか、西暦二千年は十年前に終わっちまったじゃねえか。十年後だなんて、ギャグだけじゃなくて頭もおかしくなったか、中野先生よ。
 そんな突っ込みを入れたくなったところで授業終了のチャイムが鳴る。
 先生が教室を出て教室がざわつき始めると、後ろから悪友の拓馬が背中をつついてきた。
「おい、和樹。今日もよく寝てたな」
「寝起きに変な夢を見ちまったけどな」
「はははは、黒板の”ミレニア夢”か。それにしても二千年ってずいぶん先の話だよな。その前年の一九九九年に世界が滅亡したりして」
 おいおい拓馬も俺のことをからかっているのか? 一九九九年に世界が滅びるなんて、全くのガセネタだったじゃねえか。
 ぽかんとしている俺を横目に拓馬は話を続ける。
「そういえば和樹、昨日の日本グランプリ見たか?」
「日本グランプリってF1か? ああ、可夢偉の激走はすごかったな」
 そうだ、二○一○年の日本グランプリでは小林可夢偉がオーバーテイクを繰り返して注目を浴びた。
 しかし拓馬の反応は、相変わらず時代遅れ。
「可夢偉って誰だよ。それよりも亜久里だろ。日本人初の表彰台だぜ。俺、感動しちまったよ」
 亜久里って鈴木亜久里? それって二十年前の出来事だぜ。もしかして今は本当に一九九○年なのか?
 俺は日付を確かめようとポケットの中の携帯を探した――が、無い。
「おい、拓馬。俺の携帯、知らないか?」
「俺、何も盗ってないぜ。それより携帯って何のことだよ?」
「お前、俺をからかってんのか? 携帯って言ったら、携帯電話に決まってんだろ」
「お前こそ俺をバカにしてんのか? そんなもん高校生が持ってるわけねーだろ。現国で十年後についての宿題が出たからって、本気で二千年にトリップしちまったんじゃねえだろうな」
 ダメだ。話にならん。拓馬の頭ン中は完全に一九九○年だ。
 俺が途方に暮れそうになっていると――
「なに、また二人で喧嘩してんの?」
 背後から聞き慣れた甘い声がした。この声は幼馴染の智穂だ。
「なんだ、智穂か。ちょうどよかった。拓馬がわけの分からないこと言うから――」
 と智穂の方を振り向いて、俺は噴き出した。
「ぶぶっ」
「何よ、和樹。女の子を見るなり噴き出すなんて失礼ね」
「なんだお前、その長いスカートは?」
 智穂のスカートはかなり長かった。ちょうど膝が隠れるくらい。
 スカート丈をいつも膝上十五センチにしている智穂を見慣れていた俺は、本気で目を疑った。
「長いって、いつもと同じ長さじゃない」
「ええっ? 普段は膝上十五センチくらいじゃねえかよ」
 すると智穂の顔が紅潮する。
「あんた、いつもそんなこと想像してんの? スケベ」
「スケベって、他のやつらも短いじゃんかよ」
 俺が反論すると、智穂も唇を尖らせた。
「どこにそんな女の子がいるのよ。教えてよ」
 智穂に言われて教室を見回すと――他の女の子も皆膝が隠れるくらいのスカート丈だった。密かに想いを寄せるクラスのアイドル京香でさえも。
「…………」
 俺は完全に言葉を失った。本当に俺は一九九○年の世界にタイムスリップしたんだ。クラスの女の子のスカート丈が、その無情な現実を俺に突きつけていた。
「ゴメン和樹。一人だけ居たわ、短い子」
 智穂が呟く方向を見ると、スカート丈が短い奴が一人居た。しかしそれは、太腿の断面積がクラスで一番広いと言われている高木だった。
「ミニがレアな存在というのに、よりによってそれが高木とは……」
 不覚にも俺は、ショックで意識を失ってしまった。

「先生、和樹君が気絶しています」
 教室からの声に、廊下に隠れていた中野先生がそろそろと教室に入ってくる。
「皆、お疲れさま。特に拓馬と智穂は見事な演技だったよ。協力してくれた女子は、スカート丈を元に戻してもいいぞ」
 すると、高木以外のすべての女子がスカート丈を元に戻す。和樹を騙すという中野先生の企みに協力しなかったのは、高木だけだったのだ。
「先生の高校時代って、女の子のスカート丈はこんなに長かったんですか?」と女子生徒。
「そうなんだ、一九九○年はスカート丈が短くなる直前でな」
「そいつはヤベえ」と男子生徒。
「だから同じ体験を、いつも授業中に寝ている和樹にしてもらおうと思ってな。和樹にはいい薬になっただろう。彼が今見ている夢はきっとこんな夢だ」 
 そう言って先生は、黒板の文字を修正して"ミニレア夢"と書いた。



電撃リトルリーグ 第14回「ミレニアム○○」投稿作品