魔女っ子メイド美羽2010年04月28日 20時41分00秒

 ガッチャーン!
 な、な、な、な、何コレ、なんで冷凍庫にこんなもの入ってるの!?
 だ、誰か、来てーっ!
「どうした、何があった?」
 あっ、店長が来てくれたみたい。よかった……
「て、店長。冷凍庫に、へ、変なものが……」
「どれどれ……、別に異常は無さそうだけど。そうか、君は新人だったっけ?」
 異常は無いってどういうこと? 蛙やとかげや鳥とか昆虫が入っているのが普通だってこと!?
「これは、お店の特別メニュー『魔法ドリンク』で使うんだよ。うちのお店はね、ちゃんと魔法をかけた食材を使っているんだ。そこが他店とは違って、ウリなんだけどね……」
 そうだった、ここは『魔女っ子カフェ』だったの忘れてたよ。
 黒を基調としたミニスカメイド服が可愛くって、思わずバイトを申し込んじゃった。
 それなのに、初日から変なもの見ちゃうし、ビックリしてお皿を割っちゃうし、派手に転んでお尻も打っちゃうし……
「大丈夫? 怪我は無い?」
 ありがとう店長。手を差し伸べてくれるのは嬉しいけど、なんでそんなにニヤニヤしてるの……って、あーっ!! パンツが丸見えじゃん。
「自分で立てますから……」
 すぐに隠したわよ、このエロ店長。あー、まだニヤニヤしている。コンチクショー!
 私がキッと睨むと、すかさず言いやがったのよね。
「お皿のお金、バイト代から引いておくから。分かったね?」
 あんたがこんなもの冷凍庫に入れておくからいけないんでしょ。
 早速、あんたに飲ませてあげるわよ、特別な『魔法ジュース』を。覚悟しておきなさいよね。

「雄太せんぱ~い、魔法ジュースの作り方、教えてくださ~い」
 まずは作り方を知らなきゃ店長に飲ませられないじゃない。あんなグロいもの触りたくないけど、復讐のためなら頑張らなくっちゃ。
「おっ、美羽ちゃん、熱心だね」
「はい、早くこのお店に慣れたくて~」
「感心、感心。いい魔女っ子になれるぞ」
「てへっ」
 ハイ、これで家来一匹誕生。私の萌え仕掛けも捨てたもんじゃない。
「せんぱ~い。どうして魔法食材は凍らせてあるんですか~?」
 そうだよ、何で凍ってんだよ。
「魔法ジュースはね、食材をすりおろして入れるんだよ。ほら、凍ってるとすりおろし易いじゃん。血も出ないしね」
 そっか。確かにそうだわ、って、溶けたら血まみれじゃん。
「じゃあ、魔法ジュース『エロオヤジ退治』の作り方、教えてくださ~い」
「えっ、そんなのあったっけ? まあ、いいや。基本からやって見せるよ。魔法ジュースのベースはトマトジュースなんだ。まずはトマトジュースを計量カップに入れて……」
 ふふふふふ。こいつに好きなものを入れればいいってことね。血と同じ赤色だから、何を入れてもわかんないじゃん。さて、何を入れてみようかな……

「ご主人様、お帰りなさいませ~」
「お帰りなさいませ~」
 お店の方で声がする。
「おーい、美羽ちゃーん」
 続いて店長の声。せっかく厨房で雄太先輩とイイ雰囲気なのに、邪魔しやがって。
 何だって? えっ、接客やるの? 面倒くさ~い。
「はい、まずこれを持って行って」
 お冷のコップを二つ乗せたお盆を、店長から渡される。
 どんなお客だろうと見ると、眼鏡男子が二人、ブックカバーをかけた本を読んでいる。でもあれって普通の本じゃなくて、中身は秋葉原萌えガイドだったり、萌え系イラストのライトノベルだったりするのよね。
「ご主人様、何にいたします? 当店のお勧め、『魔法ジュース』はいかがですか?」
「じゃあ、それで」
「僕もそれにします」
「私が魔法をかけちゃうんですけど、かける魔法のご要望ってあります? 有料ですけど」
「特にないです」
「あ、僕はですね、さすがヒーローって感じのがいいです」
 なんじゃ、それは? というか、お店の中でよくそんな恥ずかしいこと言えるわね。それに、もっと具体的に言ってくれないと困るじゃない。
「わかりましたぁ、しばらくお待ち下さ~い」
 まあいいや、これ以上コイツらとしゃべるのも面倒臭いし、店長に聞いてみるわ。
「店長。ヒーローって感じの魔法食材って何ですか?」
「ヒーロー、ヒーローね……。ガッチョマンとかタイムボタンとかかな……。それでやってみたら?」
 あんた、いつの時代の話をしてるのよ。今どきの若者は知らないわよ、なんだったっけ? ガッチョマンとタイムボタン? まあ、何を入れたってわかりゃしなから、それっぽいもの入れてみるわ。責任は店長が取ってよね。
 早速、冷凍庫から適当な魔法食材を取り出して……。うえっ、これをすりおろすのかよ、気持ちわり~い。でも復讐のためには我慢、我慢……

「お待たせしました~。今から私が美味しくなる魔法をかけますからね。萌え萌えマジカルパワー、えいっ!」
 さあ、飲め! ほら、飲め!
「美味しい」
 そりゃそうだ、そっちはトマトジュースだけだもん。運が良ければ、さっきの魔法の時に私の唾が入ったかもよ。
「でもこっちの方が美味い」
「どれどれ、本当だ、追加した魔法の分だけ美味しいよ!」
 マジ? あんたたち、味覚が狂ってんじゃないの?
「こっちのドリンク、ヒーロー魔法の追加分って何が入ってるんですか?」
「それはですね、トリ、カブトをすりおろしていますぅ~」
「……」
「……」
 あれっ? この人達、何青白くなってんの?
「ぎゃー!」
「た、助けて下さい!」
 そんなに騒ぐこと? 鳥のくちばしやカブトムシをちょこっと飲んだくらいで、死にゃしないわよ。
 あっ、お客さん、お金、お金~!!
 あーあ、逃げてっちゃったよ。
 んもー知らないっ! 私悪くないよ、だって店長の指示に従っただけだもん。
 でもいいっか。よくわかんないけど、店長に一つ復讐したって感じ。
 明日もこの調子で頑張ろうっと。



即興三語小説 第53回投稿作品
▲お題:「とかげ」「血まみれ」「計量カップ」
▲縛り:「主人公が嫌なやつである」「書き手の萌え(あるいは燃え)を全力投球」「皿を割るシーンを入れる(任意)」
▲任意お題:「ブックカバー」「特にないです」「トリカブトをすりおろす」「さすがヒーロー」