アンコールで微笑む人2006年12月16日 01時54分07秒

絵はがきが届いた。お店を開きました、と書いてある。
裏の写真は、異国の仏教遺跡の風景だ。

「パパ、その絵はがきに何が写ってるの?」
「初恋の人だよ」
「えっ!?ってコレ石像じゃん」
「違うよ。遺跡じゃなくてこっちのお店。そこに立っている女性だよ」
「ふーん…、でも、初恋の人はママだって言ってなかったっけ?」
「ママはね、”結婚したい初恋の人”」
「なにそれ?じゃあ、絵はがきをくれたこの人は何の初恋の人?」
「えっとねえ…」

そもそも初恋ってなんだろう。
一緒に遊びたいと思った幼稚園のあの娘がそうなのか?
それとも、手を繋ぎたいと思った小学校のあの娘がそうなのか?
人と出会い、その人に何かを感じる時、それは相手によって様々だ。
その娘と初めて何かがしたい。
そう感じたら、それはどれも初恋なのだろう。
”一緒に遊びたい初恋の人”、”手を繋ぎたい初恋の人”…
それではいったいあの人は、何の初恋の人だったのだろう。

絵はがきをくれたのは、高校の同級生だった。
もの静かな行動家で、話しかけても会話が続かない。
だからいつも、彼女を遠くから見ているだけだった。
文化際では、ピアノを弾く彼女を舞台裏で応援した。
球技大会では、卓球しながら隣のバスケットコートが気になった。
修学旅行の集合写真は、彼女の位置だけ覚えている。
ただ見ているだけなのに、なぜか幸せな気持ちになった。

「えっと、絵はがきをくれた人はね、”ただ見ているだけの初恋の人”」
「そんなのあるの?ただ見ているだけぇ?」

きっと彼女は、遺跡の近くに建てた小さなお店で、
今も寡黙にバリバリとがんばっているのだろう。
彼女目当てで訪れる客もいるに違いない。
遺跡の石像のような、強くて穏やかな笑顔は、
あの頃と少しも変わっていなかった。


文章塾のゆりかご 第3回「初恋」投稿作品

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