お父さんのススリ泣き2006年07月16日 12時44分36秒

隣の部屋から、お父さんのススリ泣く声が聞こえる。寝る前に、ひどいことを言ってしまった・・・。だって、高校受験が近いというのに、風呂上りのパンツ姿で「週末、温泉でも行かないか」なんて、のんきなことを言うんだもん。私、頭に来ちゃった。だからつい言ってしまったの、「お父さんなんて不潔!だいっキライ!あっち行って!!」って。

今晩も、隣の部屋からススリ泣きが聞こえる。昨日のことなのに、よっぽどこたえたのかなあ・・・。でも、今日のはちょっと長い。なぜだろうと思い、そっと隣の部屋を覗いてみる・・・。お父さんは、古ぼけた何かを見つめていた。

それは、一枚の絵葉書だった。そこに描かれている風景には見覚えがある。青い空、白い砂浜・・・それは毎年、家族で出かけていた南の島の風景だ。そうだ、5年前までは、みんなで楽しい夏休みを過ごしていたんだっけ。あんな事件が起こるまでは・・・

5年前、あの島での家族旅行は、突然終わりを告げられた。火山活動が急に活発化して、全島民が避難することになったのだ。私達は夜中に起こされ、荷物をまとめて慌しく船に乗り込んだ。そういえばあの絵葉書は、避難する日の夕方、島のポストに私が入れたんだっけ。5年ぶりに帰島が実現したというニュースを最近聞いたけど、それまであの絵葉書は、ずっとあのポストに置いてきぼりだったんだ。

あの事件以来、夏の家族旅行は中止になってしまった。それは私が、あの島じゃなきゃいや、とダダをこねたから。そうしているうちに私は中学生になり、お父さんとの距離もだんだん離れていってしまった。5年ぶりに届けられた絵葉書は、心の中のかさぶたを突然はがされたような、そんな気持ちにさせた。

春になって受験が無事に終わったら、ちょっと素直になってみよう。そして、あの絵葉書に書いた言葉を、勇気を出して言ってみよう・・・、パパ、また連れて行ってね・・・と。


へちま亭文章塾 第9回「殺し文句」投稿作品

泣いたお父さん2006年07月26日 00時13分00秒

「バッカじゃないの!?勝手に行けば。」
あーっ、頭に来る。お父さんったら、私が高校受験を控えているのわかってるくせに、家族旅行だなんて、のんきなこと言うんだもん。
「お父さん泣いてたわよ」
だったら、お母さんと行けばいいじゃない。私はもう、そんな歳じゃないの。

でも、いつからだろう、家族旅行に行かなくなったのは・・・。中学に入ったら部活で忙しくなっちゃったし、第一、"家族で旅行"なんて言ったら、友達にバカにされるじゃない。

次の日、学校から帰って郵便受けを見ると、お父さん宛の絵葉書が入っていた。差出人は・・・えっ!私!?いったいこれは、どういうこと・・・?裏に描かれているのは、青い海と白い砂浜・・・その風景を見ているうちに、5年前の出来事が私の脳裏によみがえった。

そうだ。そこは、毎年家族で出かけていた南の島だ。あの頃は、家族であの島に行くのが楽しみだった・・・。でも、5年前の旅行の最中に、突然噴火が起きちゃって、全住民が避難することになったんだ。私達も夜中に起こされて、慌てて船に乗り込んだんだよね。そういえばあの絵葉書は、噴火する日の夕方、島のポストに私が入れたんだっけ。5年ぶりに帰島が実現したというニュースを最近聞いたけど、それまであの絵葉書は、ずっとあのポストに置いてきぼりだったんだ。

「パパ、また連れて行ってね」
そう書かれた絵葉書を、そっと胸に当てる。
そうかぁ・・・、無邪気に言えたその言葉を、直接お父さんに言えなくなったのは、あの頃からだったんだ・・・。だから、わざわざお父さんに絵葉書を書いたんだよね・・・

春になって受験が終わったら、この絵葉書を渡してみよう。その時私は、お父さんになんて言えるかな・・・


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「お父さんのススリ泣き」の書き直し