防音を忘れた壁2005年12月12日 12時04分36秒

「うるさーい!静かにしろーっ」
隣の部屋で妻が叫ぶ。
妻が居るであろうあたりの壁を見る。
この壁は、防音をし忘れた壁だ。
こんなにもよく妻の声が聞こえることが、その証拠である。

大きくなったらどんな家を建てようか・・・
子供の頃は、いろいろな夢を持っていたものだ。
消防署のような登り棒も作りたかったし、
ぽかぽか屋根で、昼寝もしたかった。
建て売り住宅の広告があれば、食い入るように設計図を見て、
住宅展示場に連れて行ってもらうのが大好きだった。

しかし現実とは残酷なものである。
自分が実際に家を建てることになって、
あのころの計画がはかない夢であることを知った。
限られた予算では、無駄なものは作れない。
登り棒などはもってのほかで、
家の形も、子供の頃に最も嫌っていた総二階になってしまった。
これでは屋根で昼寝ができないじゃないか・・・
唯一かなった夢が、今居るこの書斎である。

書斎にAV機器を一つ一つそろえていくことで、
叶わなかった夢を忘れようとした。
DVDプレーヤー、大画面プロジェクター、5.1chサラウンドシステム・・・
そしてそれが完成してから、この部屋の最大の欠陥に気がついた。
壁が、防音仕様にはなっていなかったのだ!

「ねえ、うるさいって言ってるのが聞こえないのーっ!」
聞きたくない、いや、本来聞こえてはいけないはずの妻の声が
追い打ちをかける。
でも、ここで発想を転換してみよう。
うるさいってことは、妻もこの壁を問題と感じているはず。
それならば、改修工事への出費を認めてくれるかもしれない。
その際にこっそり、
屋根裏部屋につづく登り棒を作ってしまうのはどうだろう。
さらに天窓を作れば、星空が見れる特別寝室の完成だ。
大人の秘密基地大作戦。
一人ほくそ笑みながら、ちょっとだけボリュームを上げてみた。


へちま亭文章塾 第3回「住」投稿作品